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課題が見出される底辺

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「蟲ババ様~宇虫人顔のババ様、落書き顔の死神と対峙する!のまき(3)」




少女は煙草を吸っている蟲ババの脇を通り過ぎると、先程ババ様が座っていた敷石に腰掛け、大きな溜息をついて空を見上げました。

小柄で、見た目は小学三年生くらいですが、おそらくは五年生か六年生、高学年なのかも知れません。しかし、彼女の特徴が正確な年齢を分かり難くしています。

家族にでもカットして貰ったのか素人然と短く切り揃えられた髪型に、大きな眼鏡、度の強いレンズを使っているのでしょう、瞳が眼鏡一杯に広がって見えます。その目は虚ろで、何処に視線を向けているのか良く分かりません。下唇が大きく張り出し、ずっと開かれたままの口は閉じられることもありません。まるで、何時も口を開けたまま、口で呼吸でもしているようです。

暫く、呆然と空を見上げていた少女は、大切そうに白い犬の人形を脇に置くと、二、三回その頭を愛おしそうに撫で、ビニール袋からおやつであろうプリンを取り出しました。しかし、なかなか食べ始めようとはせず、じっと手元を見詰めています。そんな少女に、先刻、蟲ババ妹に叩きのめされた悪霊蓑虫が静かに近付いていきます。

「ちっ」

舌打ちをして、少女に接近する悪霊を追い払おうと、蟲ババ様が行動を起こそうとした刹那、一旦、姿を消していた図形顔の死神が突然現れて彼女を止めました。

「なんやねん。なんで止めんねん」

異を唱える蟲ババ様を制した死神は静かに首を左右に振り、ふっと消えていなくなります。

悪霊は一定の距離まで近付くと、そのまま動きを止めて、じっと少女を見ています。少女に危害を加える気配はありません。それどころか、座っている少女の側に数多の魑魅魍魎たちが次々と近付いて彼女を取り囲みました。

少女はそんな周囲の状況を意に介することもなく、緩慢な動作でプリンを食べ始めました。一口食べては、物思いに耽ったように空を仰ぎ、またスプーンを口元に運びます。そして、何かに耐えていた少女の目から、溢れ出すように涙が流れ出しました。少女は、その涙を眼鏡の上から手の甲で拭うと、再びプリンを口にします。二口、三口。しかし、一度溢れ出した涙は、堰を切ったように留まることなく流れ出てきます。少女はプリンを脇に置くと、今度は両掌でそれを拭いました。勿論、今度の眼鏡の上からです。もう、その顔はぐちゃぐちゃになっています。

その時、姿を消していた図形顔の死神が再び現れました。今度は、少女の直ぐ脇です。

「どうしたの。また、学校で何か酷いことを言われたの」

少女の横に腰掛けた死神はゆっくりと彼女の方を抱き寄せました。

「偉かったね。ずっと、今まで我慢していたんだね。偉かったね」

死神は少女の頭を優しく撫でました。

「さぁ、折角のプリン、食べちゃおうよ」

その言葉に促されるように、少女は黙々とおやつを食べ始めます。

「ふ~ん。そう云うことかいな」

恐らく、死神の姿が最初からあれば、少女は最初から大泣きするか、それとも泣けないか、死神と少女の関係が定かではないものの、どちらかだったでしょう。多分、死神は泣くのを我慢すると踏んで、姿を見せなかったのだとすれば、二人の絆の深さが伺えます。

「お兄ちゃん・・・」

風に乗って微かに、少女が図形顔の死神をそう呼んでいるのが聞こえました。

「なんで、死神がお兄ちゃんやねん」

不思議に思っている蟲ババ様の元へ、プリンを食べ終わった少女が空き箱を持ってやって来ました。白いシャツに赤いスカート。履いている靴には何年も前にTVで放送された女の子向けの可愛らしいキャラクターのイラストがあります。シャツもスカートも使い古して色褪せていますが、綺麗に洗ってあり、丁寧にアイロンがかかっていました。

少女は、蟲ババ様の姿を見て一瞬怯みましたが、それは人間離れした宇虫人顔のババ様、大概の子供は目の当たりにすれば怖がります。

蟲ババ様が道を空けると、少女は灰皿の下に付いたゴミを捨てる穴を覗き込んでいます。何やら思案に耽っているようにも見えますが、厚いレンズ一杯に広がった視点の定まらない眼はどこを見ているか見当も付かず、下唇を突き出した口元は、半開きのままです。

「なぁ。お嬢ちゃん、これで涙、拭きぃな」

ハンカチを差し出した蟲ババ様を仰ぎ見た少女は、暫くモジモジとした後、自分のポケットをまさぐり始めました。何度も首を傾げ、訝しそうにポケットから小さな手入れては出して、それを繰り返しています。その単純で緩慢な動作にハンカチを出したままで固まっていたババ様が少し苛立ち始めた頃、少女はポケットから真っ白なハンカチを取り出しました。

「ありがと。でもママがいれてくれたんだ」

蟲ババ様に顔を向けてにっこりと笑います。そのまま、少女はまたしても眼鏡の上から涙を拭うと、余計に薄汚れたレンズ越しにゴミ箱を覗き込み「ちがうね」と、一言漏らします。

「そりゃ、眼鏡外して拭かなあかんやろ」

笑いながら応えた蟲ババ様に少女は「うん」とにこやかに返事をすると。

「あっちだ」

と、振り向いて南を指さしました。南東二車線の横断報道が青信号になるのを待って、角にあるコンビニの前まで走っていきます。

 どうやら、プラスティックの容器を捨てる場所を探していた様子です。コンビニの前に並んだゴミ箱で悩んでいる少女の姿を見た店員さんが店から出てきて、親しそうに声を掛けるとプリンの容器を受け取り、指定のゴミ箱に捨てています。少女は満足げな表情で何度も店員に頭を下げていました。

「おにいちゃん、ちょっとまっててね」

戻ってきた少女は図形顔の死神に声を掛け、今度はニコニコと笑いながら敷石に座り込みました。怖ず怖ずと、蟲ババ妹に叩きのめされた蓑虫悪霊が少女に忍び寄ります。

一歩、二歩。

さり気ない素振りで足を進めた蟲ババ様を、死神が再び制しました。

「なんやねん。気易ぅ死神に触られたくないで。縁起でもない」

ババ様を制した図形顔は、黙って少女に視線を向けます。

「どうしたの。どこがいたいの」

少女は蓑虫に声を掛けました。

「なんや、あの子にも連中が見えとる分けかいな」

「生まれながらにして、欠けた部分を持っているニンゲンは、他の人には持ち得ないモノを手にしているものです」

図形顔が沈んだ声で言いました。

「なんやねん。するとウチらも何か欠けたものがあるっちゅーわけかいな」

「人は誰しも何処かしらに欠損を持って生を受けているでしょう。それがその人の為人となっていく。貴女の場合は・・・先ず、そのニンゲン離れした容姿とか」

「容姿が欠けてるってなんやねん」

「鼻の高さとか、目の大きさとか」

「アンタ。死神の癖にお茶目なヤツちゃなー。ウチに喧嘩、売っとるんかい」

蟲ババ様が凄んでみせますが、図形顔は何処吹く風で言葉を続けています。

「妹さんも、心に欠けたものがあるでしょう。幼い頃から彼女を見てきた貴女にはちゃんと分かっている筈です。それが原因で、貴女方がいつか袂を分けなければ良いのですがね」

「なんや。知った風な口利きさらして。アンタ、只の死神やろが。ウチらのこと、なーにが分かるっちゅーねん」

「だから、私は個にして集、集にして総。現在も過去も、未来もなく。いつでも、何処にでも私の目はこの世界に存在する全ての魂を見詰めていますよ」

「なーにゆーとるか、サッパリ訳が分からんわい」

呆れたように蟲ババ様は首を振りながら、少女と蓑虫に目を向けた時です。悪霊である蓑虫男が彼女の前に跪き、蟲ババ妹によって痛めつけられた部位に手を翳していました。少女の掌からは微かに金色の光が零れ、それが悪霊の傷を癒やしていきます。

「おいおい。あれってもしかして」

蟲ババ様はこの光に見覚えがありました。嘗てはホイホイくんの守護神が、ババ様の身体に乗り移り、深い絆で結ばれながらも、天と地と別々の世界へ歩まなければならなくなった姉妹の魂を一匹の蛍に変えた黄金の光です。そして・・・

「勿論、貴女方の探し人が有する力に比べたら微々たるものですが」

図形顔は声を落として言いました。死神本来のトーンや口調が、この落書き顔から発せられると物凄い違和感があります。

「貴女がお察しの通り、此処は磁場です。ありとあらゆる念が流れ込み、積層する場所。それだけに妖や物の怪、悪霊や幽鬼が自然と引き寄せられる地です。ニンゲンたちはその忌まわしさを肌で感じ、無意識の内に避けてきましたが、この場に棲まう怨念、否、この地が贄を欲して人を集めようと画策します」

「この場所がかいな」

「この地は初めての貴女はご存じないでしょうが、実は目の前に広がる大きな駅、あれは嘗ては一キロも南にあったものが移転してきたものです」

「知らず知らずのうちに、この場所に誘導されたと」

「そして、今度はステーションビルを中心にした高層ビルの建設ラッシュ、ニンゲンたちは本能的に拒絶しても、この場所は今やなくてはならない存在になっています」 

死神は静かに周囲を見渡しました。

「此処、大きなステーションの真正面の割には意外と賑わっていないでしょう。この交差点周辺だけは、交通量は多いのに人影は疎ら、まるでエアポケットのように閑散としています。手前まで伸びている網の目のような地下街だけが原因だと思いますか」

「うんにゃ」

蟲ババ様が死神の言葉を否定しました。

「人は無意識の内にこれらの魔の誘惑と闘い、鬩ぎ合っているのです」

「逃げとるだけやないか」

「意識していないのですから、逃げている認識はないでしょう。そして・・・」

そこまで言って、死神は言葉を濁しました。

「あの子なんですがね」

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「蟲ババ様~宇虫人顔のババ様、落書き顔の死神と対峙する!のまき(2)」




「覇眼が通用する分けあるかいな。此奴は悪霊やない死神や」

そう言って、低い鼻を押さえながら立ち上がった蟲ババ様に。

「漸く思い出してくれましたか」

図形顔は微笑みました。と、一瞬にして彼の姿が痩身黒衣の男性に変貌しています。

「今までは、この姿でお会いしましたな」

今度は声も口調も一変し、籠もった重厚な声で語り掛けてきます。

「貴女方一族は、特殊な能力に長けていらっしゃる。しかし、一族の方々で私の姿を正確に捉えることが出来たのは、いつ如何なる時も迎えに上がった当事者と貴女だけでした」

身長はピンヒールを履いて百八十センチを越えている蟲ババ妹より一〇センチほど高いでしょうか。澱んだ空気の中央で佇む痩身の男性は、そこに居るだけで禍々しい存在でもありました。

「こうして直接お話をするのは、初めて。ですがね」

深く頭を下げ、死神は一礼しました。

「しかし、最後に遭った母上様の時は何年前だったでしょうか。まだうら若い乙女でしたのに、今もあの頃と全く変わっておりませんね。その特徴のあるお顔立ちは」

「全然、褒められてる気がせぇへんのやけどな。その台詞」

「いえ、姐さんにうら若き乙女の頃があったなんて、それだけでも最大の讃辞では」

蟲ババ妹が、横から口を挟みました。姉の顔に正拳を叩き込んだことなど何処吹く風です。

「妹さんとは初めてお会いしますね」

死神が妹に向き直りました。

「嗚呼。この女、遊び歩いて両親の今際の際にも間に合わへん親不孝者やさかいな」

蟲ババ様の言葉に、死神は小さく微笑みました。

「アタシか姐さんを迎えに来たというならお門違いも甚だしいですが。特にアタシはまだまだお迎えが来る予定など心当たりもありませんし、その気もありません」

今度は、石像の如きアルカイックスマイルで蟲ババ妹が死神に微笑み返します。

「いえ、いえ。お二方をお迎えに上がるのはまだまだずっと先のことですよ」

死神は静かに首を横に振りました。

「しかし、遅かったですね。貴女方の探し人は既にこの地を去っています。彼がこの場所に現れたのは、もう一年も前のことでしょうか」

「なんや、あのアホ。やっぱり来とったんかいな。しかも、一年も前って。と云うか、なんでアンタ、ウチらが此処に来た理由を知っとんねん」

「ですから、私は個にして集。集にして総。この世界の至る所に私は存在しています」

「全然、訳が分からへんわぃ。せやけど。あのアホが、もう居てへんちゅーことは。今、此処で彼方の住人たちに救済の手を差し伸べとる巫山戯た野郎は一体何者や」

「ですから。もうすぐあの子が、この場所にやってきます。此処は、何時もあの子が座っている場所ですから、空けてくれませんか」

死神は、元の瘤を背負った図形顔に戻ると蟲ババ様にそう言いました。謙ってはいますが、何が何でも場所を空けろ!退け!と、云う脅迫めいた迫力が重圧となって二人に襲いかかります。

「ちっ、面倒やなぁ。誰だか知らへんけれど、邪魔なら自分で退けと言えばえーやないか」

交差点脇に設置された灰皿の脇まで足を進めた蟲ババ様が煙草に火を付けてぼやいています。

「無駄足だったようですね姐さん。こんな所でこの世ならぬ人たちを相手にしているなんて、絶対にホイホイさんくらいだと思ったんですがね」

蟲ババ妹も溜息混じりに言葉を受けました。

ホイホイくんとは、蟲ババ姉妹が物の怪や悪霊を退治する時に世話になっていた男性でした。世話になったと云うよりは、良いように利用していたと表現する方が正確でしょう。

二人からは幽霊ホイホイ、或いは物の怪吸引器と陰口を叩かれた、生まれながらにしてこの世ならざる、彼方の住人を引き寄せてしまう体質の持ち主です。勿論、彼自身には霊感の欠片もありません。神の座に在る強力な守護霊のプロテクトにより、どんな霊を引き寄せても、彼には全く累が及びません。しかし、彼の出現により、巧妙に姿を隠す悪霊や微弱な力しか持たない物の怪も、ついつい引き寄せられて、その正体を顕わにしてしまいます。

謂わば彼は、物の怪退治のお便利アイテムとも云える存在でした。蟲ババ姉妹は、存在を感じはすれど、なかなか正体を現さない物の怪と対峙する場合などに、ホイホイくんが好むと好まざるとに関わらず、適当に誤魔化しては彼をその場に引き摺りだし、物の怪の正体を焙り出したりしていました。

何時も、大勢の彼方に住まう人たちに囲まれながら、全く気付かずヘラヘラ笑っているホイホイくんを見ると、ババ様は背筋が寒くなる思いがします。或る意味、無敵の物の怪ハンター蟲ババ様にとっては、最も苦手タイプの天敵と云えるでしょう。それ以上に、訳も分からず蟲ババ姉妹の物の怪や悪霊退治に巻き込まれて超常現象に振り回されているホイホイくんは、この二人が原因で自分が酷い目にばかり遭うと勘違いして、姉妹を避けるようになっていましたが。

そのホイホイくんの守護霊がいつの間にか居なくなり、彼は突如として消息を絶ったのです。

「大丈夫やろ。あれはアホなだけに生命力だけは人間離れしたゴキブリ並や。大体、人か如何かも怪しいもんやで。あないにぎょーさんの霊や妖に囲まれてヘラヘラ笑ってられるんは普通じゃあらへん」

そんなことを言って、行方不明になっていたホイホイくんのことを話していた二人の前に彼が姿を現したのは、佐倉林檎嬢の依頼で、とある劇場に巣くう物の怪退治しようとした時のことです。レギオンと化した何十もの悪霊の集合体に襲われた時、忽然と現れた八つの首を持つ巨大な亀とそれに寄り添う数多の妖たちと行動を共にしていた、黄金の光を放つ謎の人影は明らかにホイホイくんでした。

「あいつ、根っからのアホやさかい。まーた、なんや厄介事に巻き込まれとるんとちゃうんか」

と、蟲ババ姉妹は彼を妖たちの世界から人間の世界に引き戻すべく、魑魅魍魎たちから情報を集めたり、悪霊たちをボッコボコに叩きのめして口を割らせたりして情報を集めていたのです。そして、蟲ババ姉妹は見えざる彼方の世界を激震させる異変が起こりつつあることを感じ取ったのでした。その中心に位置するのが巨大な八つ首の亀とホイホイくんだったのです。

「別に、妖たちの世界がどないなろうと構わへんけれど、あのアホだけは此方の世界に連れ戻さなあかんと思ったんやけど、もう居らへんのかいな。こうなったら、人の身でありながら妖や悪霊を癒やして救済しているとか云う物好きな奴の顔でも拝んでおくか」

吐き出す紫煙と共に、投げ遣りな蟲ババ様の言葉か零れます。

「人でありながら悪霊にまで手を貸すような輩、アタシは絶対に許しませんから。ああ云う奴らは二度と悪さが出来ないように絶対的に叩きのめしてやらないといけないんです」

蟲ババ妹も、先刻、自分がうちのめした蓑虫状の悪霊に視線を向けて言い放ちました。妹の場合、端から見れば自分のはけ口、ストレス解消のために悪霊を退治しているとしか思えません。

「来た。彼女がそうですよ」

いつの間にか、二人の間に割って入った図形顔の死神が此方に向かってくる幼い子供に目を向けて言いました。

その姿を見た途端。

「あっ、アタシ。ああ云う子、ちょっと苦手だから駅まで買い物に行ってきま~す。」

と、蟲ババ妹はステーションビルの方角へと小走りに駆けていきました。



交差点へとやって来たのは、小学生くらいの一人の少女でした。右手に白いビニール袋を持ち、左手で大切そうに白い子犬を抱え、俯いてとぼとぼと歩いてきました。
 

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何だか、「『ちょび』助の下僕観察日記」の方ばかり、ちゃんと更新して欲しいとの声が多く、メインである筈の人間様のブログは正しく辺境の袋小路頁(爆)。

なんで、『ちょび』助ばかり人気があるかなぁ(汗)。

あちらを真面目に更新すると、メインのこちら(メインです。飽くまで人間様の頁がメインです)が完全な手抜き状態。

もう、写真や動画で誤魔化してばかり♪

どうせ、年中引き籠もりの世間と隔絶された仙人生活の空×ジ・O、ネタもないし。

と、云うことで。

久々のババ様。

訪問者のほとんどは忘れてしまったろうけれど、肝腎の空×ジ・Oでさえ、すっかり忘却の彼方状態だった「蟲ババ様」の続き。

書いた都度、掲載していく予定なので、またしても本人でさえ先が読めない状態ですが。

どうせ、チラシの裏程度の代物ですから、と気楽に書いていたら・・・

実は、第三者の目から見ればチラシの裏どころか、ほぼトイレの落書き並みだっらしい。

そんな大そうなものではないと自分でも分かっていたつもりですが、自分の想像以上につまらない代物だったのですね(爆)。

その事実に直面して、暫く見て見ぬふりをしていましたが、ネタもないし。

これが始まると、当分、ババ様が続くので・・・

スマナイ・・・・



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「蟲ババ様~宇虫人顔のババ様、落書き顔の死神と対峙する!のまき(1)」



「くぅぅぅぅ。あんの野郎。絶対にとっ捕まえて、ぎたぎたにしばき倒してやるさかい、覚悟しとれや」

その日、蟲ババ様は怒り心頭の表情でぼやいていました。

「ホンマに、人の苦労も知らんと余計なことばかりしくさって、あのアホ、あのアホ、あのアホめ」

蟲ババ様が肩を怒らせて歩道を闊歩すれば、擦れ違う人々は誰もが怒髪天をつくその迫力に道を空けてしまいます。蟲ババ様の行く所、どんな人混みも大海を割るモーゼの如きババ様プライベートロードへと姿を変えてしまいます。



目の前には大通りの十字路が広がっています。東西に伸びる片道五車線の大通り、東にある運河の端から五百メートル程の緩い傾斜を下って交差点に至ります。そのまま西に直進すれば、巨大なステーションビルが聳え立っています。西行き、東行き、どちらの車線も左二車線の処に大きな銀杏の街路樹が立ち並び、それが本線と分断されている為に、本線からの左折は不可能と云う、事情を知らないドライバーにとっては厄介極まりない大通りです。交差する南北の通りもやはり片側五車線と云う大きな十字路へと蟲ババ様はゆっくりと足を進めていました。

「なんやねん。信号が不規則やで、この交差点。やっぱり、あのアホが出没するらしい噂が立つだけあって、けったいな所やな」

延々と歩き続けて運河に架かった橋を越え、ゼイゼイと息を切らして緩い傾斜を降りながら、問題の十字路を目の当たりにした蟲ババ様は、訝しげに呟いています。

「この交差点、単純な十字路じゃないですよ。ほらほら、姐さん。交差点に割り込む形で東南、西南、それに東北の脇道が交差点へと繋がってます」

同行した蟲ババ妹が指さす方向を見れば、西南方面から数多の車が交差点内へと流れ込んできました。そして、その後信号が変わると東南からも数台の車が吐き出されます。どちらも片側一車線の道路ですが、駅方面から流れ込んでくる東南の道からの交通量は相当なものでした。信号はないものの、東北角からも道路が交差点へと延びています。

交差点に辿り着いた蟲ババ姉妹は暫く、その場に佇んで様子を窺います。

南北方面の車や通行人が青信号で動き出すと、続いて信号が切り替わり、西南からの車。その後、東南からの車が交差点に雪崩れ込み、やがて東西の信号が青になって車や人が移動して行きます。東西の大通りと東南からの道によって形作られた三角形が州のような役割を果たしている場所に足を止めた蟲ババ姉妹は、この複雑な交差点を注意深く観察しました。何本か交差点の角毎に植えられた桜の巨木が満開に咲き誇り、この季節には珍しい暑いまでの日射しを遮っています。

東南からの道は直進不可左折のみですが、西南からはUターンして西行き本線に入る以外は自由に車が通行可能です。その為、南北にある長い横断歩道の西側本線部分だけは、東南、西南、どちらの信号が青の時でも歩行者信号は青になっています。

「嗚呼、眩暈がしてきたわ。ほんま、事故を起こして下さいと云わんばかりのややこしい交差点やなぁ、此処」

蟲ババ様が溜息混じりに呟きます。そして、自分たちがやって来た運河方面に目を向ければ、広くて一直線の本線車道が広がっています。

「見晴らし自体はエエし、嫌でもスピード出すわな。こんな道」

蟲ババ様の言葉に、同行していた蟲ババ妹も後を継ぎました。

「それで、待っているのがこの変則的な交差点。重大事故が多発するのも無理ないですね。責められるべきは事故を起こしたドライバーと云うより、こんな交差点を放置しておく行政でしょう」

「なにゆーとんねん。やっぱ、一番悪いのはドラーバーやろ。それに、免許取り上げられたアンタが何ゆーても蚤の鼻毛ほどにも説得力あらへんで」

蟲ババ様が肩を竦めて、投げ遣りに言い放ちました。

「あれ、それって物凄く失敬な言いようではありませんこと、姐さん。大体、左側通行を定着させている、国の道路行政がおかしいんですよ、ちゃんと世界基準に合わせれば良いものを、なんでこんなややこしい真似するかなぁ。御陰で左ハンドルで運転すると標識が見難くって。ついつい制限速度表示なんかも見落としちゃうんですよ」

「この女は・・・なぁに、いけしゃあしゃあとほざいとんねん。ついつい標識見落とした結果が一般道で一五〇キロオーバーって、普通ならありえへんやろ。御陰で今回は車はなしって、見ず知らずの土地でこれだけの距離を延々と歩かされて、ウチとしては難儀なこっちゃ」

「JRの駅から真っ直ぐ歩いて一〇分か一五分程度の距離じゃありませんこと、此処って。姐さんが歩きたくないから最寄り駅まで地下鉄で行くって駄々をこねるから、こんなことになったんですよ。しかも、姐さんが地図を見て降りた地下鉄駅、ずっと此処から遠かったじゃないですか。アタシの方こそ方向音痴な姐さんに振り回されて散々な気分ですよ」

蟲ババ妹が不満そうに形の良い唇を曲げて言いました。

「しっかし、こりゃ。この場所で事故ばっかし起こっとるのは、ついつい速度を出し過ぎる道路の事情と、このややこしい交差点の仕組みっちゅー分けかいな。物の怪や悪霊の所為じゃあらへんで。ほんま、此処にあのアホが居着いてるんかいな」

「でも、彼方の方々の気配はしっかり感じますよね」

「嗚呼、今まで、ぎょーさんの死亡事故が起きてるさかい、しゃーあらへんわ」

「アタシには、それだけだとは思えないんですが」

蟲ババ妹の言葉が終わらないうちに、蟲ババ様は宇虫人フェイスと噂される顔で周囲を見渡しました。

「その通りや。此処には他からわらわらと流れ込んどる。この場所は一種の磁場やな。彼方の世界の住人が集まりやすい、あいつ等にとって頗る居心地のエエ、寄って来やすい場所ちゅーことや」

「アタシにも幾つかの悪霊が見えますが、どれも情けなくなる程に小物ですね。折角だからシメときましょう。色々と聞きたいこともありますし」

蟲ババ妹は端整な顔立ちで小さく微笑むと、交差点角にある街路樹の下に鋭い眼差しを向けました。そこには咲き誇る満開の桜の下、蓑虫のように細い糸で逆さまにぶら下がった、全身焼け爛れた人物の姿がありました。

そうです。この蟲ババ姉妹と呼ばれる二人の女性は、この世に在らざる世界の者たちが『見えちゃう』人たちだったのです。

姉の蟲ババ様は、狐狸妖怪に魑魅魍魎、幽霊、妖、物の怪、幽鬼。ありとあらゆる怪しげなものを見ることが出来ました。その中でも、特に鋭敏に蟲ババ様の目に留まったのは物の怪です。

人の恨みや妬み、怒り、慟哭、そして人の奥底に生まれる欲望や執着と云った感情に、魔神や祟り神、妖や魑魅魍魎が結合してカタチをなす事によって誕生する、この世に在ってはならない存在、それが物の怪です。それ故に、物の怪は只、そこに存在するだけで微妙に時空や空間を歪ませ、放置しておくと次第にそれが増大して、側にいる人間たちに理不尽なまでの影響を及ぼすことがあります。

蟲ババ様は、物の怪が誕生するに至ったよりしろ、即ちヒトの心に優しく語り掛け、時によっては脅しとか、脅迫とか、恫喝とか恫喝とか、恫喝によって相手の心を揺さぶり、よりしろを消滅させることで、物の怪を退治していました。

一見すれば中肉中背、宇宙人・・・否々、見るからに宇虫人顔、性質はからっとした典型的OーSAKAのオバハンたる蟲ババ様とは相反して、妹の方は美人女優かはたまたトップモデルかと見紛う程に長身痩身容姿端麗を誇っています。到底、血の繋がった姉妹には見えないのですが、脈々と受け継がれる血筋は見えない筈のモノが見えてしまう能力者として確実に受け継がれていました。

蟲ババ妹は、姉に比べて見える範囲は極々限られたものです。微弱な力しか持たない霊や物の怪などは感知することが出来ません。その怜悧な瞳が捕らえるものは、あからさまにこの世に干渉しようと強大な力を誇示する霊や妖たち、そしてその多くが悪霊と呼ばれる類のものたちでした。

蟲ババ妹の最大の特徴は、悪霊たちをその瞳に捕らえるばかりでなく、冷たいまでの瞳で補足した獲物は決して逃さない、とばかりに相手を恐怖によって忽ちのうちに硬直させ、実体を持たない筈の霊たちに対して、彼女からの物理的な攻撃を有効化させてしまう、古今の悪霊たちにゴルゴン三姉妹以上に畏怖される伝説の覇眼の持ち主である点でした。彼女の前では、どれ程の強大な力を持った悪霊も、蛇に睨まれて動けなくなった無力な蛙同様の状態となり、延々といたぶられ続けるだけの存在となり果ててしまいます。

この二人、或る意味、最凶の極悪姉妹ではあります。

今も、眼に留まった悪霊に対して、蟲ババ妹は無慈悲なまでの暴行を加えていました。しかし、端から見れば舞い散る桜の花びらに戯れているようにしか見えません。それ以上に、この交差点は何故か人気が少ないのが気になります。

「あないに大きな駅の真っ正面に位置して、車もぎょぉさん通り過ぎるのに、人影は疎らやなぁ。多分、これだけ強力な磁場となると誰しもが本能的に道を避けるんやろか」

恐ろしい悪霊が無抵抗なままにボコボコにされている姿を眺めながら蟲ババ様が小さく呟き、植えてある街路樹の脇にある敷石に腰を降ろした、その瞬間です。

「オネイサン。その場所、空けてくれないかなぁ。そろそろあの子が来る時間なんだ」

蟲ババ様の耳元で突然声がしました。

「ああん、なんやねん。うちぁ道に迷うて、歩き続けてきたさかい疲れとるんや。ちょっとくらい休ませてんか」

「でも、此処はあの子の場所なんだよ。空けてあげてよ、オネイサン」

何者かの声が、再び蟲ババ様の耳殻に触れるように続きます。声の主の呼吸までが柔らかな紗と化してババ様の頬を撫でていく錯覚を起こさせる距離です。

「あん、なんやねん。お前?どっから湧いて出たんや」

蟲ババ様が思わず声の主に顔を向けました。ババ様の視界一杯に、大人とも子供とも付かない大きな顔が広がっています。エラの張った真四角の骨格、ほとんど隆起していない鼻。平行に垂れ下がった眉と細い目はその間が非常に狭く、時計で云うなら四時四十分だか八時二十分を指しています。口角は大きく上がり気味が悪いまでの作り笑いを形作った印象で、白い肌が相まって四角いキャンパスに菱形が無造作に描かれた顔立ちです。

「どっから湧いて出たって、酷い云いようですね。オネイサン」

声は抑揚のない一本調子で相手の感情は全く読めませんが、この顔を目の当たりにしては、どんなシチュエーションでも笑っているようにしか聞こえません。

蟲ババ様は、突然現れた声の主を注意深く観察しました。敵意はない様子ですが、油断はなりません。なにしろ、磁場としてこの世に在らざる魑魅魍魎が集まり易いこの場所に屯しているその他の妖や物の怪たちは、自分たちを浄化・消滅させる力の持ち主たるババ様姉妹の出現に恐れをなして距離を取り、遠くから二人を眺めているばかりです。それまで、全く気配を感じさせることもなく突然と姿を現して、なれなれしく声を掛けてくる不気味な存在、そこから発せられる気も、他の魑魅魍魎たちとは全く異質なものです。

「なにもんや。あんた」

蟲ババ様は鋭い目付きが相手を威圧します。相手の動きに即座に対応出来るよう、既に身構えてもいます。彼方の世界の住人たちを普通に目にし過ぎているあまり、最初はごく普通に受け答えしていましたが、どうやら相手は巷に屯する魑魅魍魎とは一味違う様子です。物の怪とも、悪霊ともちがう存在感、しかし、蟲ババ様は相手が身に纏っている気配を昔からよく知っているような気がしました。この相手とも、何度か遭ったことがあるような気がします。

「あんた・・・」

漸く、蟲ババ様は声の主が発している気配に思い当たりました。死です。今、蟲ババ様の前に居る正体不明の存在は、他の魑魅魍魎たちとは全く違った意味での死そのものを身に纏っていたのです。

声の主が数歩ほど場所を移動し、蟲ババ様の正面に立ちはだかりました。友好的な態度で接してきた声の主ですが、一目見て典型的宇虫人フェイスの中年オバハン、蟲ババ様に「オネイサン」などと声を掛けるあたり、どんな下心や企みがあるか分かったものではありません。しかし、静かに蟲ババ様は相手が広げる死の影に覆われていきます。

異常を感じて、蟲ババ妹が声の主の背後に仁王立ちしています。何事かあれば即座に鉄拳を見舞うことが出来るような絶妙のポジショニングです。彼女の眼に留まる以上、相手は一定以上の力を蓄えた悪霊なのでしょうか。しかし、蟲ババ妹の覇眼がこの不気味な図形顔に効いている節は見受けられません。

のそり。

死を纏った図形顔が、緩慢な動きで蟲ババ様に顔を近付けました。背丈は小学校の高学年か中学生くらいでしょうか。しかも、身体をくの字に曲げ、背中に大きな瘤を背負っている分、一層小柄に見えます。ただ、小さいはずの身体とは裏腹に、相手の影だけが大きく膨れあがり、蟲ババ様を覆い尽くしていきます。

「久しぶりだね、オネイサン。ボクのこと、覚えてる」

図形顔は微動だにせず、影の中から聞こえる囁き声が蟲ババ様の鼓膜を震わせます。影に呑み込まれたババ様は完全に金縛りに遭っていました。

「なんやねん。ウチに金縛りとは、半端やないで、この落書き野郎」

呪縛を解こうと、気を集中しかけた蟲ババ様の機先を制するように、図形顔は背中の瘤に押し潰されるが如く身を屈め、ババ様を真っ正面から見据えました。

「オネイサンに顔のことで落書き呼ばわりされるなんて心外だな。でも、この姿じゃ分からないかな。オネイサンとは何度か遭ったことがあるんだけど」

この図形顔の発する死そのものの存在感、その時に蟲ババ様は思い出しました。祖父母、そして両親、友人や知人たちの臨終の際に立っていた男が身に纏っていた空気と全く同質のものです。

「ボクは個にして集。集にして総」

「あ、あんたは」

蟲ババ様が口を開きかけた刹那。

べきっ!

蟲ババ妹が放った渾身の正拳が、見事なまでに蟲ババ様の顔面中央に炸裂しました。

「あらららら・・・ご免なさい姐さん」

「この女は相も変わらず・・・」

並の男なら片手で捻り倒す蟲ババ妹の拳を真っ正面から喰らったのですから、さしもの蟲ババ様もそのまま仰向けに引っ繰り返って、街路樹に後頭部を打ち付けて鼻血を垂らしています。

「すみません。この小さいの、後から思い切り殴りつけてやろうと思ったら、透過しちゃいました。覇眼が通用しませんでしたね。大丈夫ですか?姐さん」

図形顔に敵意がないと悟るや否や、蟲ババ妹は全く悪びれる素振りも、心配する気配も更々ないままに、儀礼的に妹が声を掛けてきます。今の一撃も、姉を助けようと云うよりは、取り敢えず、急に出現した正体不明の相手に一発お見舞いしておこうと反射的に手を出したに過ぎない様子です。

図形顔は既に、妹の後に立ち位置を移動して、この遣り取りを楽しそうに眺めていました。
 

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蟲ババ様 ~ 蟲ババ様の出番が皆無??の巻(後編)

目的地には、男の見知った小さな家がありました。病に伏せった幼子の家と寸分違わぬ造りです。

「こんにちは」

粗末な板塀越しに声を掛けて、男は中に入っていきます。玄関の脇に備え付けられたポストに目を向けると、其処には封筒と同じ住所が書かれていました。但し、ポストの名前だけは封筒の宛先にあった女性の名前が一つ書かれているだけです。

住所と名前を確認した男は、三通の封筒をポストに入れようとしました。

その時です。

「あら珍しい。此処に人が尋ねてくるなんて」

と、猫の額程の庭で、花の手入れをしていた女性が声を掛けてきました。

「娘さんからです」

男はそう言うと、女性に三通の封筒を手渡しました。

「こんな所に?」

怪訝そうな表情で封筒を受け取った女性でしたが、一目見るなり。

「これは、娘の字です。まだ、平仮名しか書けない、拙い文字ですけれど、間違いなく娘の字です」

そう言いながら、封筒を大切そうに胸に抱え、泣き出してしまいました。

「ありがとう。こんなに遠くまで配達してくれて、ありがとう」

女性は、何度も何度も、男に礼を言いました。

「いえいえ、どういたしまして。俺も、ずっと気懸かりだったこの封筒を直接ご本人に配達出来て、こんなに嬉しいことはありません」

門を出た男の前には、壊れた筈の赤い自転車が綺麗に修理されて、立て掛けてありました。男はそれに跨ると、自転車を漕ぎ始めます。

満身に降り注ぐ、金色の粒子が男の行く先を路となって指し示しています。遙か彼方では微かに赤色灯の点滅する色や、サイレンの音が聞こえます。それでも、男は只、真っ直ぐに前だけを見詰め。黄金の路を自転車に乗って進み続けました。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「あ。アンタには俺が見えるんだろう。助けてくれ。このままではあの狐に喰われちまう」

逃げ回る悪霊を追い、路地裏へと遣ってきたホイホイくんの足元に、満身創痍の状態で地を這うように黒い影が忍び寄ってきました。つい先刻まで狐と空中戦を繰り広げた禍々しいまでの威圧感は微塵もなく、まるで枯れ枝のように萎びた容姿です。

「アンタ。アンタがさっき使っていたのは救済の技法だろ。それで俺を、俺を何とか助けてくれ、俺を救済してくれ」

影の後ろには、狐が迫ってきます。

「頼む、頼むから助けてくれ」

足元に縋り付く悪霊を見据えたホイホイくんは、小さな溜息を一つ吐くと、掌から金色の光を放ち始めました。

「ありがてぇ」

言った悪霊の言葉が終わらないうちに、黄金の光は一本の槍と化して、悪霊の背中に突き立てられました。

「散々、悪事を働いた割には、往生際が悪すぎますね」

黄金の槍は背中から胸元へと悪霊の身体を貫き、深々と地面に刺さっています。

その激痛に耐えかねた悪霊が、世にも恐ろしい叫び声を上げています。

「これで、ちょこまか逃げ回ることも出来まい。じっくりと味わって喰ってやる」

追いついた狐が、冷たい視線を悪霊に向けて呟きます。

「遣り過ぎですよ、狐様。街中であんな大技ぶっ放して、怪我人でも出たら如何するつもりですか」

「其処まで俺様が知るか」

人間たちのことになど興味はない。と、云った素振りで、狐は身動きの取れない悪霊を喰らい始めました。

「だから、狐様を連れて来たくなかったんですよ」

「喧しい。あれが俺様の遣り方だ、文句あるか」

「文句ありません。今度から、他の人と組むだけの話ですから」

「おいおい、それはないだろう。お前最近、犬野郎や焔姫ばかり連れ出すだろう、俺様は何時も留守番で退屈してるんだ。たまには俺だってストレスを発散させて暴れたいお年頃なんだよ」

「何百年と生きていて、何がお年頃ですか。それに、たまに皆さんの姿が見えたり、気配を感じる人間が居るんですよ。姿を見られても無難な方を連れ出すのは当然ですよ。頼りになる方々ですし」

「ちょっと待て、それじゃ俺様は頼りにならないみたいな言い方だろ、それ」

「そうは言ってませんが」

「大体、犬っころやちび女なんざ、切り込み隊長たる、この俺様の霊力の前では二人束になって掛かってきても鼻息一つで吹っ飛ばしてやらぁ」

狐は二本足で立ち上がると、大仰にポーズを取っています。短い後ろ足で居丈高に前足を広げる格好は、結構、間抜けな姿にしか見えません。

「切り込み隊長って、何時も何も考えずに突撃して、先走っているようにしか見えないんですが。取り敢えず今の言葉は、お二方にちゃんと伝えておきますから、お気を悪くなさらずに」

大見得を切る狐にホイホイくんは笑いながら言いました。

「やめて。あの二人に余計なこと言わないで、あいつらは洒落が通じる連中じゃないから」

急に、狐は意気消沈します。

二人の間抜けな会話が交わされている間にも、周囲には生きながら食される悪霊の断末魔が響き渡っていました。しかし、通り過ぎる人々は誰一人それに気付きません。押っ取り刀で遣ってきた救急車の赤色灯が、雨の向こうで点滅しています。人々は事故があった大通りへと歩いていきました。

「間が悪かった。では、済みませんね。目の前でこの悪霊が人を一人餌食にしたのに、彼を助けることが出来なかった」

ホイホイくんが少し声を落としています。

「自惚れるな」

悪霊を食べ終わった狐が二本足で立つと、ホイホイくんの隣に寄り添って言いました。

「そうですよね。僕に出来るのは肉体を失った魂を嘘で塗り固めた虚像で慰めることくらいですから」

ホイホイくんには人の命を救うことは出来ません。この先、現実の世界で生きていく加害者となってしまった母親や、同乗して惨劇を目の当たりにした幼子に対しても、彼の能力は全くの無力です。

「まぁ、そうでもないさ。人だって妖だって、優しい嘘を必要としている連中は幾らでも居るんだ。お前はそれで沢山の魂を救済してきた。それは誇りに思って良いと思うぞ」

取りなすように狐は穏やかな声でホイホイくんに語り掛けます。

「それに、お前を必要としている仲間たちが大勢居るんだ。勿論、今の居場所が嫌なら。お前は何時でも戻れば良いんだがな」

人の世か、はたまた妖や魑魅魍魎たちの世界か、この二者択一にホイホイくんは、自分に助けを求める妖たちの世界へと飛び込みました。彼が優霊とか憂霊と呼んでいる、者たちの世界です。たった一つの想いに縛られたが故に、永遠に生き場所を失い、自らの存在をより強力な悪霊たちに捕食され、吸収されるまで永劫に闇の中を彷徨うか弱い者たちの世界です。

「と言うか、お前、還れよ。今ならまだ間に合う」

黙して語らない、ホイホイくんに狐は言葉を続けました。

ホイホイくんの掌が金色の輝きを微かに放ちます。

「まるで、僕自身を象徴しているみたいだ」

呟いたホイホイくんは、そのまま歩き出します。

「だから、狐様。その格好は拙いですよ。狐様の姿が見えちゃう人が何処に居るんだか分からないんですから」

ホイホイくんの言葉に、狐は嬉しそうに姿を変えて、彼の足元に寄り添って歩調を合わせます。見た目は普通の狐ですが、威風堂々と威張った歩き方です。胸を張り、顎を上げて悠然と足を進めます。何より、その歩き方は容姿と態度が大いにバランスを欠いて、見るからに滑稽です。

「今回は、本当に狐様と一緒で助かりました。ありがとうございます」

ひょこひょこ歩く狐の姿を見ながら、ホイホイくんは思わず口にしました。

「褒められてる気がしねぇよ」

その言葉に狐は即答します。

やがて二人は、地下鉄の出入り口へと辿り着きました。

春の嵐が吹き荒れる中、出入り口には一人の少女が佇んでいます。黄色い帽子に、赤いランドセル。真新しい、紺色の洋服。入学式の帰りでしょうか。

少女は狐の姿に気付いた様子です。

「わぁ。ワンちゃんも濡れちゃったね」

少女が狐に手を差し伸べました。

「これは狐さんだよ」

ホイホイくんが身を屈めて少女に微笑みかけます。

「へぇーっ。私、狐さん触るの初めて」

濡れた狐の頭を少女は優しく撫でています。

「お迎えを待っているの」

暫く、狐と戯れる少女を眺めてホイホイくんは声を掛けました。

「うん。朝は晴れてたから、傘持ってこなかったの。きっとお父さんが持ってきてくれると思うから待ってるの」

「お父さんが」

「私、お母さんは遠い所に行ってるから、入学式も一人で行ったんだよ」

「偉かったねぇ。家は近いの」

「うん。直ぐ其処なんだけど、この雨だと大事な服やランドセルが濡れちゃう。お母さんが戻ってくるまで綺麗なままにしておきたいの」

「お母さんに、今の姿を見せたいんだね。じゃ、この傘使うと良いよ」

ホイホイくんは手に持っていた透明のビニール傘を差し出しました。

「えっ。これ借りて良いの」

「良いよ」

「でも、借りるのは良いけどどうやって返したら」

「お兄さんはこれから地下鉄に乗るから、もう傘は使わないんだ」

「うわぁ、おじちゃん、ありがとう」

言うと、少女はホイホイくんから傘を受け取りました。ホイホイくんはそのまま嬉しそうな表情で階段を降りていきます。

「おじちゃんじゃなくて、お兄さんなんだけどなぁ」

と、一言だけ呟きながら。

「あのくらいの年の子から見れば、紛う事なきおじさんだろう、お前は」

笑いながら狐も彼の後に続きます。

「あれ、狐さんを電車に乗せて大丈夫なのかな」

ふと、思い立った少女が振り返ると、ホイホイくんの後ろ姿だけが階段を降りていきます、狐の姿は何処にもありません。

不思議そうに小首を傾げた少女が傘を広げると、金色の光の粒子が舞い散りました。

「良かったね。君が出したお母さんへの手紙。親切な郵便配達のお兄さんが責任を持って届けてくれたよ。よかったね」

光の中で、先程の男性の声がしました。

傘を開いた少女の周囲には、暖かくて清浄な空気が充ち満ちています。見上げた傘の先には、其処だけ真っ青な空が広がり、ぽっかりと白い雲が浮かんでいます。

空の果てから、少女の名前を呼ぶ声も聞こえてきました。

「お手紙を、ありがとう」

それは懐かしい母親の声でした。

「見て。見て、お母さん。私、今日から小学生になったんだよ。お母さんが楽しみにしていた小学校の入学式だったんだよ。病気ばかりして心配かけてゴメンナサイ。でも、もう大丈夫。私、今日から小学生だから」

少女も母親の声に応えます。

嬉しそうに微笑んだ少女の姿は、次第に傘の中に広がる青空へと吸い込まれていきました。

「お母さん。お母さん。お母さん」

激しい雨と風が、地下鉄の出入り口脇に植えられた桜の花々を散らしていきます。

春の嵐に吹かれながら、歩道の上を持ち主のない透明なビニール傘が、カラカラと音を立てながら転がっていきました。

めでたし、めでたし。

ちゃんちゃん。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

取り敢えず、敵役に堕ちたホイホイ君が蟲ババ様姉妹に退治されて、おっ死んぢゃう前に、彼のお話も少しはw
 

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蟲ババ様 ~ 蟲ババ様の出番が皆無??の巻(前編)

男は閉じていた目を、そっと開けました。若い男です。まだ、二十歳を超えたばかり。と、行った所でしょうか。倒れた赤い自転車の前輪が、音もなく微かに回り続けています。その手前に落ちているのは、男が被っていた帽子でしょう。転がった帽子に、冷たい雨が容赦なく降り続けていました。

先程感じた、全身を苛む電撃様の激痛は、既に消え去っています。しかし、男は自分の意志では指先一本、瞼一つ動かすことは出来ませんでした。

男は身体も動かせないままに、周囲を見渡します。彼はその矛盾に気付くことなく、視点が激しく移動していきます。

男は大勢の人々に囲まれていました。降りしきる雨の中、モノトーンに染まった世界で、朱、黄、碧と色取り取りの傘だけが鮮やかな光彩を放ちながら揺れています。男の視線は時には高く天空から地上を見下ろすが如く、また時には低く地面から見上げるように、一つ処に定まることなく泳いでいきます。

ずぶ濡れになった一人の若い女性が、顔面を蒼白にして、雨の中わなわなと震えながら呆然と立ち尽くしています。歩道脇には彼女が乗っていたであろう自動車が止まっていました。やはり、ボンネットに貼り付けられた若葉マークが雨に打たれています。

「やだよ!ママが。ママが、お巡りさんに捕まっちゃう」

雨の音以外何も聞こえなかった男の耳に、幼い少女の声が響き渡りました。

まだ、幼稚園児くらいでしょうか。おそらくは若い母親が自動車で娘を迎えに行った帰りだった様子です。

一人の男性が、泣いている女の子に透明のビニール傘を翳しながら、止まっている車の後部座席へと幼子を導いていきます。まるで、この女の子の視界から男の姿を隠そうとでもするかのような素振りです。

嗚呼。この男性には見覚えがある。先程、自分が追い抜いていった男性だ。

男がそう思った刹那、彼の記憶が徐々に蘇ってきました。

そうだ。

自分は仕事を終えて帰る途中に、この男性に声を掛けられたのだ。

「今、其方に行っちゃ駄目です」

この土砂降りの中、前を歩いていた男性を追い越して、大通りに差し掛かろうとした時、後ろからこの男性がそう声を掛けてきたのだった、と。

声を発した男性を振り返ったものの。別に、彼の言葉を気にも留めずに、そのまま二度、三度と、男が乗っていた自転車のべダルを漕いだ途端のこと。自転車が何者かに引っ張られるように急に加速を付けて、車道へと吸い込まれて行きました。

男は先刻の不可思議な体験に思いを寄せます。何故あの時、かけた筈のブレーキが効かなかったのだろう。只、濡れたアスファルトの上をタイヤが滑るように車道へと突進して行く中で、何故、自分は身動き一つ出来ずに長い、長い時間、固まり続けていたような錯覚に襲われていたのだろう。

そして響き渡る低い衝突音の後に、目の前に現れた微笑む黒い影は一体、何だったのか。大きく視点が宙に浮き、高い位置から見下ろしたあの男性は、何故それまで影も形も見えなかった犬を連れていたのだろう。 

男にとっては、全てが現実味のない出来事でした。自らの体験した、白日夢のような一瞬の幻。

男は、雨に濡れた冷たいアスファルトから、何とか身体を持ち上げようと試みましたが、やはり、体は全く動きません。

幼子を自動車の中に入れた男性が、再び自分の元へと遣ってきます。一匹の犬がリードも付けずに、男性の足元に寄り添っています。まるで、気の小さな犬が飼い主の足元に身を潜めて隠れているような仕草です。傘以外の色彩が沈んでしまった雨の中で、犬の黄色がかった薄い焦茶色の毛並みが、神々しい程の光沢を放っています。

「何時の間に姿を現したのだろう」
 
不思議に思った男が、じっとその犬を見詰めました。

「いや、違う。これは犬じゃない。これは・・・」

そう思った刹那、男の耳元に笑い声が響いてきました。

夕刻と呼ぶにはまだ少し早い時間ですが、激しく降り続く雨と厚くたれ込めた雲の為、街は朦朧とした幔幕をおろしています。

既に灯された街灯が煌々とした灯りを湛えている中、交差点脇の一角だけは、どんよりとした薄墨色に塗りつぶされて、今にも吸い込まれそうな闇を醸し出していました。街灯の明かりさえも、無に帰すような深い暗闇です。

その中心、街路灯の下には、禍々しいまでの気配を発しながら微笑んでいる、黒い影が佇んでいました。

「うふふふふ」

影は、雨に濡れることもなく、嬉しそうに笑い声を上げながら、ゆっくりと男の方へと近付いてきます。

と、その瞬間。

男性の足元で息を殺していた犬が大きなうなり声と共に突然、此方に向かってくる黒い影に挑み掛かりました。

笑っていた黒い影は、獣の急襲を受けて驚いて空へと逃げ出します。犬も後を追って宙に舞いながら幾度となく影に体当たりを敢行していました。

「違う。あれは、犬じゃない。あれは、あれは狐だ」

男は、中空を飛び交い、何度も衝突を繰り返しながら、天へと駆け上がっていく二つの物体を驚嘆の眼で追い続けています。ぶつかり合う度に、黒い影はダメージを受けて漆黒の身体が襤褸襤褸と崩れてゆきます。

そのうちに、男の頬を濡らす雨が、金色に輝き始めました。それに呼応して、モノトーンに沈んでいた世界が、燦々と眩いばかりに色を成していきます。

舞い散る黄金の粒子の合間から、中空で激しくぶつかり合う二つの影が垣間見えます。狐の攻撃を受けていた黒い影の動きが次第に鈍くなってきました。頃合いを見計らうように狐は宙に浮いたままで身構えると、影に向かって大きく口を開けて吠え掛かります。

きーーーーーーんん!

何時までも鼓膜を震わす、硝子を爪で引っ掻いたような不快な高音階が周辺に木霊しました。黒い影は、一瞬にして破裂するように砕け散ると、そのまま地面へと墜落していきます。と、同時に周囲の街灯が全て割れ始めて、周囲の人の頭上に破片が降り注ぎました。

人々は悲鳴を上げながら避難してゆきます。傘も差さずに蒼白な顔で佇んでいた女性も、近くの人に手を引かれて歩道の隅へと連れて行かれます。

たった一人、狐を連れていた男性だけがその場に留まって男を見下ろしていました。

その時になって、男は初めて気が付きました。突然に降り始めたこの金色の雨は、この男性が降らしていたものだという事実にです。

黄金の雨は、男性が男に向けて翳した掌から放たれていたのです。

優しく、暖かな光です。

この黄金の雨に打たれながら、男の脳裏に幼かった頃の懐かしい想い出が蘇ってきました。

一人っ子だったこともあって、両親に溺愛された幼少時代。自分の小学校の入学式をあれほど楽しみにしていながら、その直前でこの世を去った優しい母親。

「お母さんは、あの天の川に引っ越して住んでいるんだよ。天の川の中には此処とそっくりな世界があって、この街と全く同じ場所があるんだ。お母さんは其処で星になって暮らしているんだよ」

夜空を指さして、そう教えてくれたのは父親だったでしょうか。

「だから母親に手紙を書いた。その言葉を信じて」

男は、平仮名しか知らない、幼稚園児の時に、何通も、何通も、宛先の自分の住所の前に「あまのがわし」、と書き添えて、手紙を送っていました。

しかし、全ての手紙は男の自宅へと送り返されてきます。自宅のポストに、あれほど苦労して書いた手紙が、母親の元に届くことなく戻ってきたことを知った時のあのやるせなさ。それでも手紙を出し続けるしかなかった、寂しさ、悲しさ。

父親も交通事故で小学六年の頃に亡くなりました。その後は親戚中を盥回しにされながら、最後には独力で高校を卒業し、今の職に就きました。

「そう。あの時のことがあったからこそ。俺はこの仕事を選んだんだ」

男が誰にも聞こえない声で呟きます。

「嗚呼。全ての配達が終わった後で良かった。大切な手紙が雨に濡れなくて良かった」

家族も身寄りもない男にとって、気懸かりなのは自分が配達すべき郵便物でした。男の視線の先には、赤い自転車が倒れています。自転車の前に付いている鞄は大きく口を開けて開かれていますが、中は空っぽでした。

金色の雨が男を優しく包みます。まるで穏やかに降り積もる雪のように、男の全身を金色に染め上げていきます。

「後は、これだけだな」

そんな男の声が聞こえたのか、脇に立っていた男性の顔が少しだけ曇りました。

「この三通の封筒を」

そう言って、男は自分の制服の内ポケットに仕舞ってある封筒に手を遣りました。

「おや、身体が動く」

金色の雨に打たれている内に、身体が自由に動くようになったのでしょうか。それまで、全く動かなかった腕が封筒を入れてある胸元へとすんなり伸びていきます。

男はそのまま立ち上がると、改めて周囲を見渡しました。既に雨は止み、金色の日射しが男に注いでいます。

否、雨は止んだのではありません。

雨は男の足元で、降り続けていました。

何時の間にか、男は雲の上に立っていたのです。下界を見下ろせば、灰色の街が、煙る雨の中で箱庭のように小さく見えます。

しかし、男の目の前には、彼が暮らしているのと全く同じ街の情景が映っています。

「まさか」

言いながら、男は駆け出しました。

街角を曲がり、自分の配達区域へと足を踏み入れます。すると、電柱には「雲の街」と、最初に書かれていながら、其処から先は自分の見知った、毎日郵便物を配達していた住所が書かれています。

男は懐から三通の封筒を取り出しました。

其処には「くものまち」と書かれた後、恐らく差出人の住んでいる場所と同じ住所が拙い平仮名で綴られています。

男は、差出人の顔すら知りませんでしたが、自分の配達地域です。その家の事情はよく分かっていました。長年、病に伏せた幼い女の子が居ること、看病疲れが原因なのか、その子の母親が一年程前に他界したこと。

この三通の手紙は、きっと女の子が病気と戦いながら、突然に亡くなった母親を想い、苦労して書いたものなのでしょう。だから、悪いことだと知りながら、男は封筒を差出人に返すことなく自分の制服のポケットに、そっと忍ばせました。

「もしかしたら」

そう思い。男は宛先の住所へと走っていきます。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

ぐあぁぁぁ!!!

ゴメンナサイ!

ゴメンナサイ!

ゴメンナサイ!

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