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ババ様です。

少し遡って、ホイホイくんが覚醒しちゃう前のババ様です。

ホイホイくんが物の怪退治のお便利アイテムだった頃のババ様です。

或る意味、ふと思い付いて一日で仕上がっちゃう程度の、街角の物の怪退治的なお話。

ババ様の原点ともいえます。

昨日、思い付いて、今日・・・あまりにも暇だったので書いてみました。

あまり削除ばかりしていると、極々一部の方々から叱られそうなので、これからは晒しておく方向で(汗)。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆




蟲ババ様~「這う人」って・・・コラコラ!某名探偵のタイトル丸パクリじゃないか!の巻




「父さんが母さんを殺した。だから、僕は逃げている。影を伝い、暗闇に紛れて路地裏に姿を隠しながら、僕はずっと父さんから逃げ続けている」

ずるり。

ずるずる。

がん。ごつん。がつっん。ごちん。

物陰に潜む僕の耳に、先程から地面を打ち付けるような物音が近付いてくる。

僕は、息を潜めて様子を窺う。

月も星も出ていない。まるで僕の恐怖心を煽るかのような漆黒の闇が僕の身体を覆い隠している。視線を向けた通りまでが光を失い、薄墨を垂らし込めたかの如く、全てのシルエットが曖昧なまま混ざり合っている。

ずるり。

ずるずる。

がん。ごつん。がつっん。ごちん。

刻が経過するに従って、不可解な物音は近付いてくる。父さんが僕を捜しているのだろうか。

刻。

今の僕に、時間の観念など存在するのだろうか。

たった一夜、数時間の逃亡劇のような気もする。

もう何十年も、隠れながらこの場に留まっているような気もする。

僕の心を浸食する恐怖心が、時間など食い潰してしまったのだろう。

父さんも、母さんも、優しい人だった筈なのに、何故、こんなことになってしまったのか。

ずるり。

ずるずる。

がん。ごつん。がつっん。ごちん。 

微かだった物音が、どんどんと近付いてきた。暗闇の中で、『がつん』とか『ごつん』と云う音に合わせて火花が散っている。色彩を失った僕の視界に、金色の火花が一瞬、華々しく瞬いている。

僕を何一つ不自由な思いをさせることなく育ててくれた父さん、いつも見ていた父さんの大きな背中。大きな会社を経営して、忙しそうに働いていた父さん。皆が父さんに頭を垂れていた。どんな時でも、僕の誇りだった父さん。 

優しくて綺麗だった母さん。いつも僕に微笑んでいた母さん。一緒に歩けば、誰もが母さんの姿を見て振り向いた。まるで僕は、自分自身が大勢の人に注目され、羨ましがられているようで嬉しかった。

ずるり。

ずるずる。

がん。ごつん。がつっん。ごちん。

 物音が近付くに従って、音を発している人物の姿が朧気ながら浮かび上がってきた。

あれは、この世の人なのであろうか。

とても、そうは思えない。

物音を立てているのが、僕を追っている父さんではないことが分かって一安心した。しかし、それ以上に僕はその異様な姿に怖気をふるった。

男性だ。

男性が、地面を這っている。

しかも、仰向けの状態で這っている。まるで眠っているように目を閉じ、ピンと伸ばした両足を斜めに上げて仰向けになったままの状態で、ズルリ、ズルリと背中で地面を移動している。

ずるり。

ずるずる。

がん。ごつん。がつっん。ごちん。

男性の頭部が、地面の凹凸に合わせて打ち据えられる。その度に、衝撃で頭部から黄金の火花が散っている。

がつん。

ごつん。

僕の隠れている路地の脇を、男性が通り過ぎていく。背筋を使って移動しているのだろうか。それとも彼の背中には、触手の如き無数の小さな足が、びっしりと生えているのであろうか。僕の目の前を、目を瞑った男性の横顔が横切っていく。散った火花の欠片が、路地へと飛び込んできた。

微かな光は、直ぐに消え去ってしまったが、何も見えなかった路地裏を小さく照らし出した。暖かい、何故だかほっとさせてくれる光だった。激しくもなく、熱くもなく、まるで炭火で優しく凍てついた心を慰めてくれるような光だった。

一瞬の、微かな灯りが走馬燈のように僕の記憶を鮮明に投影する。

父さんが母さんを殺した理由は分かっている。父さんの会社は、父さんと母さん、そしてもう一人の男性と三人で創業したものだった。皆、近所に住んでいた幼なじみ。

多分、この三人で会社を大きくしていた時期が父さんの絶頂期だったかも知れない。

でも、父さんも、その男性も、幼いころから母さんを愛していた。二人とも全くそんな素振りを表に出さないまま、協力して会社を大きくしながら、水面下ではどちらが美しい母さんを射止めるか、激しく競っていた。

結局、母さんは父さんを選んだ。僕にしてみれば至極当選なことだろう。父さんが社長だったのだから。形としては、相手の男性が身を引いて、会社を自ら出て行き、自分で新しい会社を創ったらしい。

でも、その男性が居なくなり、母さんが家庭に入ったことで、父さんの背中には、今までの何倍もの重責がのし掛かるようになっていた。会社の業績も落ち込む一方。それでも、父さんは会社の為、従業員の生活の為、そして、僕に不自由な思いをさせないよう身を粉にして働き続けた。母さんも、どんなに会社が苦しくて、家庭が大変な時でも、僕に対してはいつも優しく微笑んでくれていた。

そんな両親の間に亀裂が生じたのは、資金繰りが忙しくなった時、いつもお母さんが実家から借りて来たと称していたお金が、実は会社を出て行った男性からものであることが発覚してからだった。頼る先がなくなった母さんが、幼なじみの男性の元へ泣きついたことを知った時の、父さんの顔は今でも忘れられない。

「たった一度の過ち」

誰も居ない所で、母さんはそう言って泣いていた。でも、僕は知っている。男性から借りたお金で、会社が窮地を脱したのは二度や三度ではなかったことを。何が、たった一度の過ちなのでだろう。

そして、父さんは母さんを殺した。会社の為でも、プライドの為でもない。きっと、父さんは母さんを奪われまいとして殺してしまったのだろう。

あの夜、眠っていた僕を優しく起こすと、父さんは僕の手を引いて家を出た。

「ママは」

尋ねる僕に、父さんは何一つ応えず俯いたままだった。母さんは全てを悟っていたのか、抵抗しなかった。父さんの顔は何故か穏やかだった。

僕は母さんに似ていたのかも知れない、父さんとは顔も骨格も体型も、全く似ていなかった。

「そのうち似てくるよ」

そんな話題になると、いつも父さんは寂しそうに呟き、そして笑った。夜中に、僕の手を引く父さんの顔は、そんな時に見せていた表情だった。

ずるり。

ずるずる。

がん。ごつん。がつっん。ごちん。

這う男が、ゆっくりと遠離っていく。

僕は、彼に導かれるように、路地をゆっくりと出て行った。彼のまき散らすささやかな金色の粒子に暖を求めるように。何故だか、彼に導かれるように。僕は身を隠していた漆黒の路地から通りへと、吸い寄せられるように足を踏み出した。

そして、彼の後を付いていく。

男の放った粒子を見る度、その中から僕は自分の記憶を手繰り寄せるように蘇らせていく。

あの夜、父さんは大きなお屋敷の前まで来ると、門の前で人を呼び、僕に手紙を渡して自分は消えてしまった。お屋敷に案内された僕が目にしたのは。そう、父さんと同じくらいの年をした、何処か僕に似た面影の男性だった。

ずるり。

ずるずる。

がん。ごつん。がつっん。ごちん。

待ってくれ。

何故、僕は寝ていた筈なのに、父さんが母さんを殺したことを知っているのだろう。母さんが、抵抗することなく、成されるがままに死んでいった光景を覚えているのだろう。 僕はあの時、自分の部屋で一人、眠っていた筈だ。

それに、如何して僕が父さんや母さんの幼馴染みである男性を知っているのであろう。しかも、その男性はお屋敷で僕を迎え入れてくれた、僕によく似た男性だった。

どすん。

這っていた男性の動きが、急に止まった。上に伸びていた両足が、激しい勢いで地面に降ろされる。否、支えを失って落ちた、と云った方が正確かも知れない。そんな印象だった。

その刹那、僕の背筋を冷たいものが走った。父さんに追われる以上の恐怖が僕に襲いかかり、金縛りに遭ったように僕はその場に立ち竦んでしまった。

よく見れば暗闇の中で、微かに青白く浮かび上がった這う男のシルエットの上方に、左右二つずつ、四つの目が光っていた。

その内の高い方の二つの目が、此方にゆっくりと近付いてくる。切れ長の綺麗な眼だった。まるで研ぎ澄まされた刃物のような鋭い視線。その眼が僕の正面に留まったと思った瞬間。

べきっ。

激しい衝撃が僕の顔面中央で炸裂した。

思わず跪いて見上げた僕の視界が真っ白に変わり、次第に鮮明に開けてくる。

僕の眼が捕らえたのは美しい女性だった。まるで女優さんの如きしなやかな肢体、整い過ぎて冷たさすら感じる怜悧な顔付き、優しかった母さんとは全く趣を異にした見目麗しい女性だった。

ばきっ。

今度は女性が振り上げた膝が、僕の顎を捕らえた。身動きの出来ない僕は、それでも身体を大きく逸らして仰け反っていると、振り上げられた踵が今度は脳天に振り下ろされてくる。

思わず倒れ伏した僕の襟首を掴んだ女性は、高々と僕を持ち上げると、今度は僕を地面に叩き付けた。

激しい痛みで呼吸もままならない僕は、大の字になってのびている。しかしその時、僕は信じられない光景を目の当たりにした。

夜なのに、空には星が瞬いていない。否、地上の明るさが星の光を打ち消しているのであろう。等間隔に備え付けられた真っ白な光が月明かりや星明かりを凌駕し、夜を浸食していた。その眩いばかりの冷たい光は、僕の知っているガス灯とは全く異質のものである。

地面もそうだ。

土の暖かみも柔らかさもまるで感じない。この地面は冷たく、恐ろしい程に固い。

「何故?何故、僕にこんな酷いことをするの」

喘ぎながら発した僕の一言に、女性は応えることもない。

「姐さん。この馬鹿、まだこんなこと言ってますけど、どうします」

女性は僕を無視して、もう一人の人物に声を掛けていた。

「あんたなぁ、ええ加減にしぃや。ほんまにもう」

もう一人の女性も、僕の方へ歩み寄ってきた。何だか、此方の女性は物凄く哀しそうな目をしている。

「アンタが誰よりも奥さんを愛していたちゅーことはウチにも分かるで。血ぃ繋がっとらんでも、息子さんを誰よりも大切に思っっとったちゅーことも理解出来る。血ぃ分けとらへんでも、アンタがあれだけ愛した奥さんの子供や、憎むこともでけたんやろうけど、アンタはほんま、あの子を大切に育てていた」

この女性は、一体何を言っているのだろうか。僕を誰と間違えているのだろうか。

「せやけどなぁ。アンタが子供を託した後、自らの命を絶ちきって、この世に留まってしもうたらあかんやろ」

女性はしゃがみ込むと、僕を覗き込むようにして言葉を続けた。

「アンタの未練がこの世に留まった御陰で、今のアンタは悪霊や。アンタがこんな処に留まっとるさかい、子供があんな不幸な目に遭ったんやで」

誰だ。一体、誰のことを言っている。この女性は。

「姐さん、こんな男に同情は禁物ですよ。此奴は最初から、何の取り柄も甲斐性もないヤツだったんです。奥さんや友人の力で成功しておきながら、いざ自分一人の力で社会を渡らなくてはならなくなった時には何も出来ない役立たずですから。それを、新しくゼロから会社を興した友人の所為にしたり、奥さんに八つ当たりして暴力ばかりふるったり、最低のヤツですよ、此奴は」

そうだ、母さんはよく父さんに殴られたりしていた。僕が知っている父さんは、いつもお酒ばかり飲んで、母さんに乱暴していた。それでも、母さんは僕の前ではいつも微笑んでいた。父さんは僕には優しかった。

「まだ、しらを切ってますよ。この最低男」

倒れている僕の背中を背の高い女性がピンヒールで踏みつけてくる。

「女性に手を挙げる男なんて、最低以外の何者でもありません。アタシはそう云うヤツ、絶対に許しませんから」

踏まれ続ける背中が痛くて、熱くて、僕はとうとう泣き出してしまった。それでもこの女性は容赦なく僕を踏みにじり続けている。

「もう、エエやないか。大体、アンタが絶対許さへんのんは、痴漢にひったくりと違ごうたんかい」

「今日から、DV野郎もそれに加えることにします」

もう一方の女性に引き離されて、漸く彼女の乱暴は収まったけれど、僕には未だに事情が飲み込めないでいた。

「なぁ、ウチはアンタが奥さんを深う愛していたことはよー分かった。アンタは薄々自分の息子が血ぃ繋ごうとらんことを承知しながら、大切に育ててきた優しい人だちゅーことも分かっとる。だから、もう目ぇ醒ましいや」

再び、倒れ込んだ僕の前にしゃがみ込んだ女性は、静かに鏡を差し出した。

そこに映った僕の姿。

鏡に映った僕の姿は、お父さんそっくりだった。

良かった。いつの間にか僕はあの男性ではなく、お父さんそっくりに育っていたんだ。

「アンタが、何もかもに失敗して全てを失った時、それでも奥さんだけは誰にも渡すまいと、あんなことしでかした気持ち、分からんでもないで。子供をあの男に託さへんといかんよーになった、あんたの気持ちもよー分かる。せやけど、夫として、親として、何も出来へんかった自分を情けのう思ったからって、幾らそんな自分に嫌気がさしたからって、自分で命を絶った後、自分自身を捨て去って唯一気懸かりだった子供に自分を擬えてしもうたら、アカンやろ」

「嗚呼嗚呼嗚呼」

その言葉を聞いた時、思わず私は絶叫していた。

「ウチら、本当はこの先にある旧家に居座る子供の物の怪を退治に来てたんや。残酷なようやけど、これだけはアンタに知って欲しい。アンタ。これを知らなければ、悪霊のままでずっとこの場所に居座ることになるさかいな」

私の顔を覗き込みながら、女性は話を続けた。

「子供さんは、実の父親正体。誰からも知らされることはなくても分かってたんとちゃうかな、言葉にしないでも。あの男性の方も、何も語らずにいた。それでも、男性は子供を大切に育てとったで。愛する人の忘れ形見やさかい。だから、成功した男性に言い寄ってくる女性も、進められる縁談も全て断って、独り身のままあの子を育てとった。いつかは、真実を話しことがあったかも知れへん。でも、二人はそれを口にしないまま、穏やかに暮らしとった」

そこで女性は一息入れて私の顔をじっと見詰めた。

「せやけど、アンタは自分自身を我が子だと思い込むことで、そうやって自分から逃避することで悪霊と化してしまった。そんなアンタが側にいることで、あの子は思春期を迎える頃、アンタが発する負の波動に感応してしもうたんや。あの男を憎むアンタの心に」

その先は聞きたくない。

耳を塞ごうとする私に、女性は容赦なく言葉を投げつけた。

「その結果、大きく歪みを生じた息子さんの精神は、最後にはあの男を殺した後、自分も首をくくってもうた。アンタが息子さんを呪い殺したも同然や」

「うわぁぁぁぁぁぁ」

聞き終わると、私は絶叫と共に何度も何度も激しく地面を叩いた。私が息子を呪い殺してしまった。彼女の最後の言葉が、胸に突き刺さる。

「姐さんの方がアタシより余程残酷、ですね」

背の高い女性が呟いた。

「しゃーないやろ。あないな悪霊、そのまま放置しといたら、他にもどこぞで人様に迷惑かけるに決まっとるさかいな。ほら見てみい、自分で作り上げた、虚像が崩れると共に男の悪霊としての力も崩れ落ちていくで。もうこれで、人間の営みに影響を及ぼすこともあらへんやろう。ああやって嘆き悲しむだけの霊として永遠に存在し続けなならへんちゅーのも少し可哀相な気もするけどな」

「自業自得です」

「嗚呼、そうや。アンタの息子さん、な。なんで、こんなことしてしもうたかって、後悔ばかりしてあの屋敷に留まり続けてしもうて、結局は魑魅魍魎と結合して物の怪になってしもうた。ウチらが物の怪退治したさかい、息子さんの魂はちゃんと天に召されたと思うで。それだけは安心しいや」

しかし、彼女の最後の言葉は、慟哭し続ける私の耳には届くことはなかった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「しかし、今回はホイホイさんが居てくれた御陰で助かりましたね、姐さん」

「ほんまやで。今回のような微弱な力しか持たへん物の怪はなかなか正体が掴めんさかい、この幽霊ホイホイの御陰で大助かりや。悪霊相手でないとアンタはなんの役にも立たへんしな」

「ちょっと、ちょっと、姐さん。それって酷い言いようでは」

この二人の女性。姉を蟲ババ様、妹を蟲ババ妹と云います。この世に在らざる彼方の世界の人々が見えてしまう能力の持ち主です。

魑魅魍魎に妖に悪霊、幽鬼、ありとあらゆるモノが見える蟲ババ様は、執着や欲望、妬み嫉みに嫉妬や憎悪と云った人の心に生まれた感情に魑魅魍魎などが結びついてカタチを成す物の怪を退治しています。物の怪とは本来、この世に在ってはならないもの、放置しておけば空間や時空に歪みが生じ、周囲の人々に理不尽な影響を及ぼすことがあるのです。よりしろとなったヒトの心に優しく語り掛け、時には脅したり脅迫したり、怒鳴り上げたり、恫喝したり恫喝したり恫喝して、よりしろとなった心を消滅させることで、物の怪を退治するのです。

蟲ババ妹は、微弱な妖などの存在を感知することは出来ません。彼女の眼に留まるものは、人間社会に積極的に影響力を及ぼす強大な力を持った存在です。そして、そのほとんどが悪霊と呼ばれるものたちでした。彼女は伝説の『覇眼』の持ち主であったのです。その怜悧な瞳に捕らえられた悪霊は忽ちのうちに恐怖で金縛りに遭い、実体を持たない筈の彼らが彼女からの物理的攻撃をダイレクトに受けてしまうと云う、ゴルゴン三姉妹以上の恐るべき眼力が特徴です。

そして、大の字になって気絶しているのがホイホイくん。彼自身は霊感の欠片も持ち合わせてはいません。しかし、生まれながらにして彼方の世界の人々を引き寄せてしまう、特殊な体質の持ち主です。巧妙な物の怪や、力が微弱でなかなか正体を掴めない妖などを相手にする時、彼がその場に出現することで、どんな魑魅魍魎たちも思わず姿を現してしまいます。

謂わば、物の怪退治のお便利アイテムと云える存在でしょう。蟲ババ姉妹は、彼のことを「幽霊ホイホイ」とか「物の怪吸引器」などと呼んで重宝がっています。勿論、本人にしてみれば迷惑この上ない話です。

今回も、旧家に出没する物の怪の正体がなかなか掴めず、蟲ババ姉妹は言葉巧みに誑かしてホイホイくんを巻き込みました。結果、少年の物の怪を眼にした途端、彼は泡を吹いて気絶してしまいました。根っから小心でヘタレな人物です。

「しかし、ホイホイさんが居てくれた御陰で、悪霊になった親の方まで姿を現すとは思いませんでした。却って手間が省けて良かったですね、姐さん」

「ほんまやで。あの悪霊、放って置いたら今度はどんな処に影響を及ぼすか、分かったもんやあらへんしな。本人にその気がないだけ始末が悪いで」

言いながら、二人は気を失っているホイホイくんの両足を小脇に抱えて歩き始めます。

「しかし。姐さんも口が上手いですね。あんな駄目男が奥さんを愛している優しい男だなんて。アタシには口が裂けてもあんな嘘付けません」

「なーにゆーとるんや。あの男は誰よりも奥さんを愛しているから、殺してしもうたんやないか。奥さんもあの男が子供を実の父親に預けることが分かっとったから、抵抗せずに殺されたんや。あの夫婦、アンタが思っている以上に深く結ばれていたんやで」

「そうでしょうか。だとすると愛って、相手を縛り付ける只の独占欲、如何に相手を強力に支配するか、って云うことになっちゃいません。愛しているからって殺されたんじゃ、命が幾つあっても足りませんよ」

「アンタの場合はそうやろうな。確かに数え切れへんほどの男、誑かしてきたろうから、愛情以上に恨みもかってそうやし」

「姐さん。絶対にそれ、アタシのこと誤解してますよ。少なくともアタシは人様から恨みをかうような覚えはありませんから」

いけしゃあしゃあと蟲ババ妹が言い放ちます。

「反対に、秘めた想いを持ち続ける愛情を注いでいたのが、息子に殺された実の父親やな」

「秘めたる想いねぇ。それって、秘めたままではないも同様、相手に届くことのない想いを抱き続けているだけなんて、愛してないって相手に思われても仕方ないですよねぇ。まぁ、あの男性の場合は、届けたついでに子供まで作っちゃって厄介なことになっちゃいましたが」

「あの二人の場合は、お互いの気持ちが十分に分かっていたやろうから。本当なら何もないままでも良かったんとちゃうかな」

「そんなものですかねぇ」

言うと、蟲ババ妹がクスクスと笑い始めました。

「なんや、急に。気持ち悪いわぁ」

ホイホイくんを引き摺りながら、蟲ババ妹は笑い続けています。

「ねぇ、ねぇ、姐さん。姐さんはどうしてほらしんさんと一緒になったんです」

その一言を聞いて、蟲ババ様は急に噴き出しました。蟲ババ様、見るからに宇宙人、否、宇虫人顔です。それでも、ちゃんと旦那さんが居ます。

「なんやねん、この女。急にそないなこと」

「だって、ねぇ。ケタケタケタ」

笑いながら、蟲ババ妹は足を止めました。

「答えてくれなかったら、それ以上動きません。姐さん一人でホイホイさんを抱えて車まで連れてって下さい」

意地悪そうな顔で彼女は姉を見詰めます。

「しらんわい。そりゃ、確かに高校一年の時には、気になっとったけど。転校してO-SAKAに行ってからは、すっかり忘れとったわ。それがK-YOTOで再開して、暫く顔合わせとったら結婚してくれゆーねん」

「言われたから」

「嗚呼。他にウチにそんなこと言った人居らへんかったし。まぁエエわいと思うて一緒んなっただけや」

「へぇー。あんなに仲睦まじい夫婦なのに」

「仲睦まじい?何処がやねん。あの甲斐性なし」

「ははは。てれないてれない、姐さん」

言いながら、再び歩き始めた蟲ババ妹の足がまたしてもピタリと止まりました。

「拙いですねぇ、姐さん、どうしましょう。駐車場はこの下ですよ」

目の前には階段があります。蟲ババ妹の車はその下の駐車場に置いてありました。

「ホイホイさん、そろそろ目を覚ましてくれないですかねぇ」

「構へん、構へん。打たれ強さだけが取り柄の男やさかい、この程度のこと、何ともあらへんやろ。大体、此奴は人か如何かも怪しいもんや。いつもあないなぎょーさんの彼方の方々に囲まれてヘラヘラ笑ってられるんやから」

「やっぱり、姐さん。強引にマイウェイの怖い人ですよ」

「アホかい。強引にマイウェイはアンタの運転やないか。ジェットコースター並の運転してからに。ウチぁ、気ぃ失っとるホイホイが羨ましいくらいや。これから、アンタの運転する車に乗って目ぇ空けてないといかへんさかいな」

「またまた、失敬な。運転しているアタシは全然平気なんですがね」

「当たり前やろ。だからアンタは怖いちゅーねん。ほらほら、ウチは疲れたさかい、早ぅ休みたいんや。さっさと行くでぇ!」

ごん。

ごん。

がごーん。

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

       めでたし。めでたし。
             お終い。


 

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こんばんは!

読み終わり、なぜかスッキリしました。
面白かったです。

ホイホイさんの扱いがひどいのですが・・これは毎度の事なんでしょうか・・?
ψ( ̄◇ ̄)ψケケケ・・・
こんにちは、おちゃ様。

ホイホイくんの扱いは御約束です♪
酷い目に遭っていくうちに、ほとんど読む人もないこのシリーズでババ様姉妹よりも応援する人が出てきてしまったので、天に唾する極悪敵役に落としましたがw
始めにちょっぴり怖がらせておいて(全然、怖くないですが)、最後に「バッカでぇ!」と笑わせるババ様・・・スッキリする要素が一体何処に(爆)。

うーん(-"-;)

夜、読むんじゃなかった。。。。。。

ところで背中男はなんなんですか?
(o_o;)ガーン
こんにちは、なおこ様。

ええっ!
夜読んでは拙かったですか(汗)。

あのぉ。。。。。
背中男は、蟲ババ姉妹に足を持って引き摺られている、気絶したホイホイくんなおですが…分かり難かったですか。。。

やっぱり、こんなのは一週間ほどで削除して、証拠を隠滅しておいたほうが良さそう(大汗)。

こんばんは!2

スッキリする要素、
物語が解りやすくて、最後までスムーズに読めたのでスッキリしたんだと思います。
小説なんか読んでて難しかったりすると、途中で何度も読み返したりしますので。
最後は めでたしめでたしという終わりが笑えましたww
。.★゜・:*:・ヽ(。・ ◇ ・。)ノ。・:*:・゜★.。・:*:・゜☆スッキリ
こんにちは、おちゃ様。

分かりやすくて最後まで読めた♪
ありがとうございますw
ブログの文章自体、読み難い文章だとよく言われるので嬉しいですw
どうせなら、最後は笑って終りたいですし♪

あー

「僕」があまりにイっちゃってるのでババ様姉妹が見えなかったってことですか? あと、なんとなく頭を先にして進んでるのかと思ったので・・・頭の中で映像化しちゃってコワかった(>_<)

ちなみに私は読んでて難しくても、読み返しませーん( ̄▽ ̄)
ヽ(。_。)ノギク!
こんにちは、なおこ様。

「僕」は実際、何も見えないところで閉じ篭っています。
彼は、真っ暗なところで他の人の姿を見ることもなく、時間の感覚もないままに、意識しないまま悪霊としてひっそりと隠れています。
ホイホイくんが「幽霊ホイホイ」と云う特殊な存在であるが故に、彼の姿だけが見えているのですが…
全然、通じないですね…確かに(汗)。
やっぱ…駄目だな。ババ様。
アイタタタ…
つまらないもの読ませてしまって申し訳ありません(汗)。
神様お許しを...( TーT)m  乂( ̄x ̄)バツ!

ああ、なるほどね

それで最初、眼だけが4つ見えたのね。で、殴られて目が覚めた、と。

たぶんコワい話を読みなれてる人はちゃんと最初からわかるんでしょうね。私はそれこそ目をつぶってさっさかさっさか斜め読みするので(^o^;)

・・・って、また夜に読んじゃったよー(>_<;)
.......(;__)/| ずぅぅぅぅん

万歳~\(^O^)/

可哀想なホイホイ君の落ちてゆく音を聞きつつ、喜んでいる私です。
ハイ。
削除無しになったなんて
素晴らしい!!!

ちなみに、私は虫ババ様とほらしん君の
ラブロマンスがもっと知りたいです(爆)
ほらしん君、良い味だしていたけど
このシリーズには再登場はしていないですもんね。(?多分???)

てことで、続編求む!!!
_□(. .。)ケシケシ
こんにちは、Baroncia様。

直ぐに流れるだろうと思って、残しておいても問題ないと高をくくったのですが……ババ様が始まるとアクセス数が急に『ちょび』助の頁に大移動を起こしてしまうので、どうしてもアチラの頁更新が優先されてしまい、こちらの更新がままなりません。
流れない……(汗)。
やっぱり消しちゃいましょうか♪

ほらしんくん。登場してないですねw
ババ様の旦那さんがほらしんくんらしいと云うことは匂わせてますがw
ラブロマンス自体が無理な相談なので放り出しちゃってますw
もしかして(もしかしなくても)、続編望んでいるのはBaroncia様だけのような気が(爆)。

いつでも蟲ババ様♪

遅くなりました。
蟲ババ様はシリーズなので、最初から読んでいないとキャラの性格など分かりにくいかもしれませんねぇ。
ということで、削除はナシ!にして、リンク貼りましょう。そこをクリックすると歴代の蟲ババ様がいつでも読める、と。
せっかく面白い話なのに、消しちゃうのは勿体ないですよ。
大丈夫!恥ずかしいのは書いた本人だけですから(爆)


キャーヽ(▽⌒ヽ)(ノ⌒▽)ノキャー
こんにちは、コロ様。

リンク貼りましょう。そこをクリックすると歴代の蟲ババ様がいつでも読める♪
バロン様に言われて、蟲ババ様だけ独立させてそうしようと思ったこともありましたw
文字数の関係でブログでは細切れになるのでHP立ち上げて、そこからババ様や、此処の「底辺」頁や「ちょび助」頁に飛べるようにしようかと♪

PC音痴の自分には、HPは無理。
何だか面倒そうです。訳が分かりませんし。

それに、管理画面で直接書いたババ様は削除した後は記事が手元に残ってませんし、リンクを張ろうと今までの時系列を整理したり、幾つかの作品を一つにまとめたりしたら……途中で面倒になってしまいました(爆)。
ある意味、今までのババ様、そんな理由で手直ししたものも多いので、頁に掲載したババ様は一切、自分の手元にありません。
あっても、読みたい人いないでしょう。
数少ないババ様支持者の方々は、削除される前にコピーしているでしょうしw
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