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課題が見出される底辺

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「蟲ババ様~宇虫人顔のババ様、落書き顔の死神と対峙する!のまき(6)」




「で、わざわざ呼び出して。ウチにどないせいちゅーんや」

「北の端、とある有名な霊場の一角に強力な磁場があります。現世と彼方の世のゲートの役割を果たしているが故に、念が蓄積しやすくこの国では最大の磁場となっています。長年に渡って堆積した念が形成する磁場は、自ら自我を持ち、広く触手を伸ばしてこの国のあらゆる場所に影響を及ぼしています」

「手ぇ伸ばすんかいな」

「いえ、虜にした悪霊を駆使して人々を物の怪と化しているのです。近々、磁場の手によって創られた悪霊や物の怪たちが一堂に会する夜宴が催されます。磁場に集まって」

「夜宴・・・あまり、穏やかな宴でもなさそうやけど」

「磁場は実体化し、霧ホテルを呼ばれています。普段は誰の目にも映ることなく、存在すら一般には知られない。磁場に選ばれた者と贄になる者、それ以外は入ることを許されないホテルです」

「霧ホテル。名前だけは聞いたことがあるような」

「その夜宴を狙って、ホイホイくんは自分たちの野望の総仕上げにかかろうとしています。最強の磁場と、そこに集う強大な悪霊や物の怪、彼らにとっては時空を破り、力を増強するための悪霊に事欠かない、格好の条件が揃った場所といえるでしょう」

「で、それを阻止する為に天も乱入するわけかい」

「ホイホイくんをニンゲンの世界に連れ戻そうとするならば、それが最後の機会です」

死神はその時に不敵な笑みを漏らしました。図形顔のものではありません。それは人の魂を奪い去る死神そのものの不気味さを漂わせていました。

「アンタ。一体、なに企んどるんや」

「私はなにも企んではいません。天の理を遂行する一つのパーツに過ぎませんから」

「ほんまかいな。なーんか裏に一物ありそうな気配なんやけどな」

しかし、蟲ババ様の問いに応えが返ってくることはありませんでした。既に少女を抱いた死神の姿は何処にも見当たらず、只、お地蔵さんの脇に立っている風車が風もないのにカラカラと回っているだけです。

「アンタ。この子が、人知れず闘っていた御陰でぎょーさんの人間や妖を助けてきたちゅーけど、本当はこの子に一番助けられてたんは、アンタかも知れへんで」
 
蟲ババ様が空を見上げて、静かに呟きました。

その時です。

蟲ババ様の携帯電話が着信音を奏でました。相手は蟲ババ妹です。

「姐さん。来月の六日、七日。土日の予定は?」

いきなり、蟲ババ妹は切り出してきました。

「ちょっと、珍しい招待券を二枚手に入ったので、もし宜しければ。佐倉さんから譲って頂いたのですが」

「佐倉林檎ちゃんからかいな」

佐倉林檎は新進気鋭の舞台作家です。以前は原子力発電所の設計をする理系才女でしたが、結婚を機に主婦業の傍ら、作家として名を上げ、今では彼女の手掛けた舞台のチケットはプレミアとなっています。それ以上に「ばんにゃぁぁぁぁ!」「ぐずぐずぴぃ~~~まん!」などと、佐倉言葉と称される意味不明な台詞をハイテンションで語り掛けてきながら、一旦、舞台に入ると冷徹なまでの理系才女に豹変する多重人格ぶりについていけず、或る意味、蟲ババ様にとってはホイホイくんに次ぐ苦手なキャラであると云えるでしょう。

「なかなか手に入らない、招待券なんですけれど佐倉さん、舞台の関係で出席出来ないんですって。折角だから貰っちゃいました。強引に」

電話口では蟲ババ妹の嬉々とした声が零れています。

「政官業のお偉いさんや、芸能界にTV新聞関係のメディアの有名人が一堂に会するの。この機会にしっかり顔を売っておかないと、末代まで後悔しますよ」

「ウチはそう云うの苦手や。アンタ、言い寄ってくる男に恩を着せて同行して貰ったらどうや。そう云うの得意技やろうが」

「アタシも行く先が普通なら、絶対に姐さんなんか誘いません。もっと有効に使います」

「なんやねん。それ」

「知ってます。これ、会場が霧ホテルなんですよ。色々、妙な噂も耳にしますし、話の出所のほとんどが悪霊たちからです。ちょっと、曰くありげな感じでしょう。だから、姐さんは何かあった時の用心棒代わりです」

霧ホテル。

その一言を聞いた途端、蟲ババ様は思わず噴き出してしまいました。

「出来すぎた話やで。何処の何奴が何を企んどるか知らへんけども、けったくそ悪いこっちゃ。せやけどこの話、乗るしかしゃーないな」

「なんの話です」

訝しげに尋ねる蟲ババ妹に。

「詳しいことは会ってから話すわ。せやけど、その霧ホテルでのパーティ。ホイホイのヤツをとっ捕まえる最後のチャンスや。彼方の世界にどっぷりと嵌り込んどるあのアホを、何が何でもウチら人間の世界に連れ戻すのはその時を置いてあらへんで」

「デッド オア アライブ、ですね」

「なんや、それ。ウチは横文字なんぞサッパリやで」

「任せて下さい。生死に関わらず、必ずホイホイさんを私たちの世界に連れ戻しましょう。姐さん」

「いや、アンタ。生死には拘らなあかんやろ、生死には」

蟲ババ様は思わず叫びました。

「ほんま、或る意味。こいつもモンスターやで、我が妹ながら」

「誰がモンスターですか。失敬な姐さんですね」

電話口からは蟲ババ妹の声が響いてきます。しかし、蟲ババ様のこの一言が、後になって的中し二人を分かつことになろうとは、神ならぬババ様には予想出来もしない事柄でした。


☆ ☆ ☆(オマケ)☆ ☆ ☆


「ぶわわわわぁ!」

客室の奥から、ヒキガエルが地面に叩き付けられたような悲鳴が上がりました。

驚いた女将は、ドアを開けて客室内へと駆け込みます。その日、誰も居ないのに大勢の子供たちの騒ぎ声やバタバタと走り回る足音が廊下に響き渡るとか、風もないのにこの客室のドアや大浴場の扉が開いたり閉まったりしていると、宿泊客や仲居さんたちから声が上がり、ちょうど調べに来た時の出来事でした。

室内に入った女将は、思わず目を見張りました。この部屋の泊まり客は男性が一人だった筈なのですが、部屋中にはおつまみやスナック菓子の袋が散乱し、多数アルコールの空瓶が転がっています。必要以上の大量の料理が並んだ大机の横では、件の泊まり客が一人、真っ青な顔をして腰を抜かしています。

「お客様、どうか成されましたか」

壁に掛かっていたはずの絵画が、男性の脇に落ちているのを見て、しまった。と、思いながらも女将は声を掛けました。

「いえ、大丈夫です。大声を出してしまってゴメンナサイ」

立ち上がった男性は、周囲を見渡すと、少し恥ずかしそうな素振りで「あっ、部屋を汚しちゃって申し訳ないです。後で、ちゃんと掃除しておきますから」などと、苦笑いしています。

「そんなこと構いませんよ。直ぐに誰か寄越しますから、お気になさらず」

何処か別の部屋のお客さんたちを招いてこの部屋で飲んでいたのか、などと思いながら女将は一呼吸置いた後。

「もし宜しかったら、別のお部屋をご案内しましょうか」

と、言葉を続けました。

男性も少し間をおいて。

「このお部屋で結構です。お騒がせしてしまって申し訳ありません」

女将に深々と頭を下げて言いました。

その間にも、彼女の後でバタン!とドアが開いたり閉まったりする音がします。

「此方こそ申し訳ありません。扉の建て付けが悪いのでしょうか」

言いながら振り向く女将の瞳には、今部屋に入ってきた子供たちの姿は映らないようです。子供たちは嬉しそうにはしゃいで、走り回っています。

「いえいえ、気になりませんから、どうか本当にお構いなく。部屋もこの部屋で十分に満足していますから」

男性は、引き攣った作り笑いを浮かべながら応えていました。

女将が下がるのを確認した男性は、大きな溜息を一つ吐くと、崩れ落ちるようにその場に座り込みました。

「いやぁ。本当に、こう云う旅館の部屋に無造作に飾ってある絵の裏側なんて、覗いたりするものではないですね」

自嘲気味に笑ったその視線の先、絵画が掛かっていた場所には、びっしりと魔除けの御札が貼り付けられていました。

「本当に面白いな、ヒトの子とは。我等と一緒に酒盛りをしていながら魔除けの御札が怖いのか」

男の背後でたおやかな女性の声がします。

「それとこれとは別問題ですよ姫様」

振り向いた男性の瞳には、三〇センチほどの真っ赤な裲襠を身に纏った女性が佇んでいました。顔には仮面を被っています。

「全く、何が魔除けの御札だ。くっだらねぇ。こんなもん只の紙っ切れじゃないか。焔姫様、こんなもの邪魔臭いから灰にしちゃって下さいよ」

狐が横から口を挟みました。神主のような格好をしていますが、首から上は誰が如何見ても狐です。大きなグラスになみなみと注がれた日本酒を煽っています。その目は完全に据わって、ほぼ泥酔状態でしょう。顔は狐とは云え、既に獰猛な狼の如き表情です。仮面の女性が裲襠を振ると同時に、御札は一瞬発火したかと思うと、見る見るうちに消え去ってしまいました。

「ちょっと、ちょっと。大丈夫ですか。魔除けの御札燃やしちゃったりして」

「構うもんか。そんなものは紙っ切れだって言ってるだろう。第一、この辺りに巣くっていた悪霊どもなんぞ、俺たちが旅館に着いた時点でとっくに喰らっちまったよ」

何がおかしいのか、狐は大笑いしています。

「大体、お前自身が今日まで退治してきた悪霊の数、一体どれ程に上ると思ってるんだ。今まで散々、悪霊どもを消滅させておいて、今更、御札も何もあったものじゃないだろう」

「僕は悪霊退治をした覚えなどないんですがね。皆さんが全部食べて取り込んだのでしょう」

「現場に居合わせて、俺様たちに力貸してるんだ、似たようなものじゃねぇか。この馬鹿ホイホイ」

狐は大仰にポーズをとりながら笑い続けています。

「狐様が笑い上戸だとは思いませんでした。しかも、素面の時同様の趣味の悪いお笑いのツボで。一体、何が面白いのか僕にはサッパリですよ」

ニコニコしながらホイホイくんも言い返します。

「あの腰の抜かし方見たら、誰だって笑うぞ。大体、今まで散々、悪霊と対峙してきたお前が何を思って急に絵の裏側なんぞ覗こうと思い至ったのやら、隠し金庫でも期待していたのか。この間抜け」

「いえ。昔の友人がよく言っていたんですよ。見知らぬホテルや旅館に泊まった時、部屋に飾ってある絵画の裏を見ると、愉快なことが起きるって。勿論、あの友人の言うことですから愉快の意味が少しばかり特殊ですがね」

「ぶははははは。そりゃ、確かに愉快な友達だ。それ以前に、お前に人間の友達が居たとは意外だがな」

懲りもせずに狐は笑っています。

「まぁ、友達と云っても」

ふと、ホイホイくんは遠くを見詰めるような目付きで言葉を続けます。

「確かに、蟲ババ様との想い出って、いつも酷い目に遭ってばかりで、あんまり楽しいものが思い浮かびませんね」

ははははは。と笑いながら頭を掻いているホイホイくんに、「ババ様ならウチも知ってるで、仁王様のことやろ」と、声を掛けてきたのは、何人かの子供たちと部屋に入ってきた花坊でした。疎らな頭髪に木乃伊の如き容貌、その中で大きな目玉だけが爛々と光り、身体中は痛々しいまでの傷が至る所についています。子供でありながら、そこいらの悪霊たちよりはよほど恐ろしげな姿です。それは長い闘病の果てにこの世を去り、死して尚、母親の生き霊に殺される為だけに復活する幼気な魂に刻みつけられた疵痕でもありました。
 

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完成おめでとうございます\(^o^)/

まだ読んでないんですから消しちゃいやですよ~

ありゃ、ここ、最後のページじゃなかったm(_ _;)m
フッヽ(´ー`)丿ヽ(´ー)丿ヽ(´ )丿ヽ(  )丿
こんにちは、なおこ様。

とっとと削除しておこう♪
読もうと思って、削除されていたら後悔するし、読んでしまっても後悔するし。
どちらにしても後悔必至の代物ですが(爆)。

って、最後の頁じゃないですね。此処。
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御世話になっています♪『ちょび』助の頁だけは御世話してやってるんですが(爆)。
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