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課題が見出される底辺

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「蟲ババ様~宇虫人顔のババ様、落書き顔の死神と対峙する!のまき(5)」



蟲ババ様が振り向くよりも早く、交差点内から轟音が轟きました。

ギリギリのタイミングで右折しようと、ステーションビルの方角からスピードを上げて交差点に進入した自動車と、若者の車が急ブレーキをかけながら衝突したのです。右折車は宙に舞いながら此方に向かってきます。
 
主婦たちの悲鳴が聞こえました。図形顔の死神は、落書きに似合わぬ哀しそうな表情で、座っている少女を優しく抱き締めています。驚くべきことに、磁場に屯する妖や魑魅魍魎、妖精たちが、一瞬のうちに集まって、飛んでくる車の前に立ちはだかりました。少女の手を引いて避難させようとしている者も居ます。しかし、実体を持たない彼らは、この惨劇の前には全く無力でした。

少女は、轟音に驚いて振り向き宙を見上げました。




「当事者の前に姿を現す場合、その方法や時期は私に一任されています。だから、私はこの姿を借りて、あの子の孤独を少しでも癒せればと思い、早めに姿を現したのですよ。この職務は私にも辛いものでしたがね」

「優しいやないかい」

「私は、鬼もでも蛇でも、ましてや悪魔でもありませんから」

「なーに、ゆーとんねん。死神の癖に」

既に桜は散り、眩いばかりの緑が空を覆っています。木々の幹を取り囲むように、紫陽花が満開の花を付け周囲を彩っています。

久しぶりにこの地に立った時、蟲ババ様はその変貌ぶりに驚かされました。南東から斜めに交差点に合流していた道は、ずっと東で大通りに合流し、事故のあった歩道は贅沢なスペースのちょっとした広場と化して、松や梅などの木々が植樹されています。少女の命を奪った事故を切っ掛けに、地元の人々が交差点の形状を変えるよう、行政に働きかけたと聞いています。早急に手が打たれたのも、以前から問題になっていた交差点だったからでしょう。

少女がいつも座っていた敷石が在った場所の側には、新緑織りなす木陰の下、小さな祠が建っています。祠の前にはたくさんの花束が添えられ、中にはお地蔵さんが佇んでいます。

他の人には見えないのでしょうが、蟲ババ様には祠の中で眠っている少女がはっきりと確認出来ました。身を縮めている分けでも、少女が縮小されている分けでもないのに、普通に小さな祠に膝を抱えて眠っている少女の姿が見えるのは、こう云ったモノを見慣れているババ様にとっても不思議な光景ではあります。

「全く、ヒトとは何処まで愚かなのか。手遅れになってから、幾ら忍んでも仕方ないでしょうに」

「それが人間ちゅーもんかもしれへんな」

「もっと、彼女が生きている内に構ってやれば寂し思いをせずに済んだものを」

死神は相変わらず、この場所に少女が居る限り、大きな瘤を背負った図形顔の姿を借りています。

「そんなことはあらへん。この子は皆から愛されとったで、皆がこの子を気にかけ、一杯の愛情を注いどったで。この子は全然、孤独やなかった。この子がいつも、お兄ちゃんを気にかけとったんも、お兄ちゃんが寂しそうやったからや」

蟲ババ様は、眠っている少女を見詰めました。不器用ながらも丁寧に刈り込まれた少女の髪型、流行遅れながら何度も洗った靴、色褪せても綺麗にアイロンがかけられたシャツやスカート。決して物質的には豊かではないものの、そこには母親の少女に対する気持ちが凝縮されていました。

「そんなものでしょうか」

死神が首を傾げて言い放ちます。

「死神であるアンタには分からへんやろけどな」

蟲ババ様は交差点を見詰めて言葉を続けました。

「それに、アンタ。この子がいつも磁場に居っても、質の悪い悪霊に取り憑かれんかったんは運が良かった、ちゅーとったけど。それも大間違いやで」

近所の主婦たち、コンビニの店員さん、皆が声をかけこそしないものの、常に少女を気にかけ、少女を見守っていたことを蟲ババ様は知っています。その人々の視線こそが、彼女を悪霊から守っていたのだと、ババ様は信じていました。

「では、何がこの子を守っていたんです」  

言いながら、死神は祠の前へと足を進め、中で眠っている少女を優しく抱き上げました。

「アンタには永遠に分からへんこっちゃ。で、今日、連れて行くんかいな」

「ええ。此処の磁場も、もうニンゲンの世界に干渉する力は微弱なものです。道が一本塞がれただけで、全く様相が一変しましたから」

「世間の人たちは、ややこしい交差点がちょっぴり分かりやすうなったから、事故が減ったと思うやろな」

「ヒトが発する怨念や負の感情は道に沿って辻々、十字路に流れ込みます。この場所は、そう言ったヒトの感情によって形成された磁場です。その一つが幾つかの傍流に流れることによって、此処も随分変わることでしょう。特に、塞がれたこの道の先、河原の所にはサムライの時代は刑場だったこともあり、未だに負の念が堆く積層しています」

「嗚呼。ウチが見てもどす黒い澱が溜まっているようや」

「徐々に溢れ出す、あの澱は今まで此処に集中して流れ込んでいましたが、今は拡散されています。ほとんどは運河に流れ込んで海に出るでしょう。ヒトは恨みや憎しみ、妬み嫉みと云った感情をその身体に貯めきれなくなった時、無意識の内に放出されたそれらの念が流れ流れて磁場に辿り着き、それに邪な悪霊たちが引き寄せられる。ヒトが存在する限り、磁場はなくなりません」

「で、これからは、このお地蔵さんが代わりをするんかい」

「この地蔵は一つの標にしかすぎません。この子を想うニンゲンたちの気持ちが、磁場の力と拮抗するのです」

「この子は、自分の役目が終わるまで、一年以上も此処に眠っとった、ちゅーんかい」

「眠っていてくれて良かった。何も知らずに眠り続けていてくれて。目を覚ましていれば、肉体を失った後もこの子は寂しい思いをしなければなりませんでしたから。それだけが救いです」

周囲には、この場に屯する妖たちが少女を見送りに集まってきました。

蟲ババ様は祠の中、地蔵の隣にひっそりと置かれたチワワを手に取りました。事故の所為で激しく痛んでいますが、おそらくは母親の手によるのでしょう、折れた足は修理され、所々繕われています。ババ様はポケットから買ってきた電池を取り出すと、お腹の部分の蓋を開けました。しかし、そこには新品の電池が入れられています。マジックで新しい日付も書いてありました。

「ほんまや。これは機械なんかじゃあらへん。てくてくチワワや。ちょっと、お爺さんやけど、てくてくチワワやったんや」

言うと、玩具を祠に戻しました。しかし、半透明のチワワがババ様の手に握られています。

「オバハン、間違っとったわ。ゴメンな」 

蟲ババ様は死神に抱かれた少女の胸元に、チワワを置こうとしました。すかさず、少女の小さな手が伸びてきてチワワを掴みます。死神はそれに全く気付きませんでした。

「ほんま。なんでも分かっているような顔して、実はなーんも分かってへん。抜けた死神やで、この芸風、OーSAKAのお笑い芸人に使えそうや」

死神に気取られぬよう呟くと、少女に微笑みかけました。

「で、この子の見送りの為だけにウチをこんな所に呼び出したんかいな。夜な夜な、怪しげなカラスが夢に現れてわややったで」

蟲ババ様、今度ははっきりと、相手の耳に届くように言い放ちます。

「夢の中で幾ら伝えても、難しいと思ったので、直接にお話ししたいと。これは、厳密には越権行為になるので職務違反なのですが、貴女の探し人のことで一言」

「あのアホかいな。もうウチたちでは全然、消息が掴めへん。死神なら分かるやろ、アイツは生きとるんかいな。半端なことでは死ぬような輩じゃあらへんけど」

「私も困っているのですよ。あの人は生きながらにして別の世界にどっぷりと浸かり込んでいます。完全に彼の魂は私の管轄を離れてしまいました」

「なんやねんそれは」

「本来、私には過去も、現在も、未来も、意味のないものです。私は定められたヒトの魂によってこの先に起こるべき事象を読むのです。しかし、私の手を離れた彼の存在は周囲に多大な影響を及ぼし、未来を不確定なものにしてしまいます。既に彼はモンスターと化しているのです」

「ホイホイが?なんだか非力そうなモンスターやな」

「ニンゲンは大量殺戮を行った独裁者や突如として出現した無差別殺人者をモンスターを呼びますが、あんなものはヒトの道を踏み外した外道にしか過ぎません。本当のモンスターとは、存在こそが驚異なのです。自らが意識しないうちに社会の営みに影響を及ぼし、周囲のヒトを取り込んで贄にします。そこには自分が罪を犯したり、数多の屍を築き上げている自覚も葛藤もありません」

「だから。意味が分からへんゆーの。まだ、彼方の世界で騒動が持ち上がっとるちゅーても、ウチらの世界にはなんの影響もないやないか」

「彼の覚醒は、今この世にあるニンゲンたちの定められた運命を大きく揺るがすものなのです。勿論、彼にはそんな自覚は更々ないでしょうが」

「なーにがモンスターや、大袈裟な。よーするに、自分が何しとるかも分からへんアホちゅーことやな。で、そのアホがどんな大それたことしでかそうとしとんねん」

「彼は単純に天から見放されて還ることが出来ない、此処に居るような無力な妖たちの為に新しい世界を築こうとしているに過ぎません。ホイホイくんは彼らのことを優霊とか憂霊と呼んでいるようですが」

「此奴等の世界を」

「勿論、私も鬼ではないですから、行き場もないまま、より強い霊や妖に取り込まれる日が来るのを、黙って待っているだけの彼らを救うのに反対するものではありません」

「だから。鬼じゃないって、死神やないか」

「しかし、地上界にそんな場所は存在しません。だから、彼は時空に穴を空けて、優霊たちの楽園、新しい世界を築こうとしているのです」

「別に構わんやないか。って、あんなアホにそんなこと出来ると思えへんけどな」

「時空を裂き、新しい世界を構築すると云うことは、創造主になることを意味します。天がそんな暴挙を放置する筈がないでしょう」

死神は空を見上げました。

「天はヒトや妖たちの世界には干渉しません。自然現象であれ、自らが蒔いた種が原因であれ、どんな大惨事が起こっても天はニンゲンたちが自分たちの足で立ち直るのを見守るだけです」

「ふん。神はんはどんな時もバチを当てたりせぇへん代わりに助けてもくれへんちゅーことかいな」

「しかし、創造主の出現を、天は決して許しはしません」

「許さへんとどないなるねん」

「戦争です。ホイホイくん本人は、いつ如何なる時も天は不干渉と高を括っているようですが、間もなく天とホイホイくんたちとの戦が始まります」

「神はんと戦争って。そんなもん、天罰が下されるちゅーことかいな。あのアホではひとたまりもないやろうが」

「そうでもありません。実際に戦に駆り出されるのは下層順位の神々です。ホイホイくんには堕ちた八人の神々がついています。堕ちた神々は数多の悪霊たちを退治し、取り込むことで今や強大すぎる力を誇示しています。彼らの志に同調した幾万の妖や魑魅魍魎も力添えをしています」

蟲ババ様は、嘗て垣間見た八首の巨大な亀の姿を思い起こしました。それは、神々の力を誇示する圧倒的な存在でした。何十という悪霊たちが結合し、レギオンとなって闘いを挑みましたが、全く敵いませんでした。それどころか巨大な亀は周囲を気遣って力をセーブしていた節さえ見受けられます。そして、本来は無力である筈の妖たちが、亀と一緒に果敢に悪霊たちに挑む姿が瞼に浮かびました。

「勝敗の帰趨は私にもわかりません。だから、困っているのです。予定外の魂を集めに廻らねばなりませんしね。しかし」

死神は自分の足元に視線をおろしました。そこには少女との別離を惜しむように二股に分かれた尾の猫や団子虫のように丸まった子犬が寄り添っています。

「妖たちは本来無力で儚いものです。こんな彼らに、自らの存在意義や目的を与えるな、とは言いません。ですが、こんな妖や精霊たちをも闘争の場に引きずり込んだホイホイくんを私は許せません」
 

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御世話になっています♪『ちょび』助の頁だけは御世話してやってるんですが(爆)。
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