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蟲ババ様~ババ様は白衣の天使!?の巻(5)


宇虫人フェイスを真っ赤に染めながら、蟲ババ様は必死で力んでいます。次第にこめかみ辺りに血管も浮き始めました。

「届いた届いた。おばちゃん、ありがとな」

マーコは身体を起こすと嬉しそうに蟲ババ様のおっかない顔を見上げました。

「拾えたんか。良かったなぁ」

漸く蟲ババ様も全身の力を抜きます。

マーコは大切そうに手にした十円玉の汚れを払い落とし、使い古した子供用の小銭入れから他の小銭を取り出して金額を確認すると、それらを拾った十円玉と一緒に大切そうに戻しました。小汚い小銭入れには大きくケーコとマジックで名前が書いてありました。

「なぁ。おばちゃん」

そして、マーコは握っていたもう一つの硬貨を蟲ババ様に差し出しました。百円硬貨です。

「なんや、他にも落ちとったんか。その百円も貰うとき」

「何、言うてんのおばちゃん。これはおばちゃんのとちゃうやろ、落としもんや、お巡りさん届けなあかんがな」

マーコは少し頬を膨らませて蟲ババ様に抗議しました。

「ウチなぁ。姉ちゃんに言われてこっそり飲みもん買いに来たんや。オトンやオカンには内緒で。あんまり帰りが遅いと姉ちゃん心配するやろ。だから、悪いけどおばちゃんが、お巡りさんに届けてくれへんかな」

「そうか、そうか。アンタええ子やな」

言うと、蟲ババ様は自分の財布から百円硬貨を一枚取り出しマーコの持っていたものと交換しました。

「じゃ、この百円はオバハンが預かって間違いなくお巡りさんに届けたるわ。で、この百円はオバハンからマーコちゃんにお使いをした御駄賃や」

「何でや?今逢ったばっかりのおばちゃんにお小遣い貰うてええんかな」

「ああ、ええよ。アンタは正直なええ子やからな」

マーコは蟲ババ様から受け取った百円硬貨を「おおきに」「ありがとな」と、何度も礼を言いながら受け取り、またしても薄汚い財布に入れました。

おそらくは姉からのお古であろう色褪せた襤褸パジャマに、ぼさぼさの髪。そんなマーコの姿を自動販売機の淡い照明が仄かに照らしています。

幼い子供だからこその、たった十円玉一つに対する執着。ひたすら落ちた硬化を拾おうとしていた途端に事故に巻き込まれてしまったが故に、この場所に残ったマーコの思いに魔が取り憑いてカタチを成した物の怪ならば、執着が消えれば物の怪もよりしろを失う筈です。しかし、目の前に光景には何ら先程までと変化はありません。

「あかん。やっぱり子供は、苦手や」

そう言いながら、溜息を一つついた蟲ババ様に、少し思い悩んだ素振りを見せていたマーコが声を掛けてきました。

「あんなぁ。おばちゃん」

マーコは手にしたジュースの缶を一つ、蟲ババ様に差し出しました。

「これにおまけ、ついとるやろ」

出された缶の底には円柱形をしたプラスチックが取り付けられていました。マーコがそれを空けると、中から出てきたのは何年も続いている子供向きアニメのフィギュアです。事故当時の子供たち、否、今の子供たちも夢中になって見ている長寿番組のマスコットです。

「お小遣いくれたお礼やないけど、これおばちゃんにあげるわ」

マーコは中から出てきたフィギュアを蟲ババ様に手渡します。

「何でや。このマスコット嫌いなんか」

蟲ババ様がマーコに問い掛けました。

「ううん、好きや、大好きやで。でも、姉ちゃんも大好きなんや、これ」

マーコは首を振りながら言いました。

「でもなぁ。一個しか当たらへんかった。これ見せたら姉ちゃん、絶対に自分が欲しいのにウチにくれるやろ。そんなん、ウチ、姉ちゃんに申し訳ないやんか」

マーコが俯き加減にそう言った、その時でした。蟲ババ様とマーコしか居ない筈の空間に、おぞましいまでの魑魅魍魎の気を発しながら突然、人影が現れたのです。

「おや。何時の間にこんな所に自動販売機が」

急に姿を見せたのはホイホイくんです。

「うわぁ。此方の空間にまで出張ってきても尚、ゾロゾロ引き連れてはるで、この男」

思わずババ様が顔を顰めます。どうやら、ホイホイくんについている霊たちは、ババ様が自分たちに危害を加えたり払ったりしない事が分かって安心したのか、今では大人しくしている様子です。

「ねぇねぇ、蟲ババ様。こんな所に自動販売機なんて、ありましたっけ」

ホイホイくん。どうやら、未だ半分は元の世界に居るようでババ様と自販機は見える様子ですが、マーコの姿には全く気が付いていません。景色も元の休憩所のままな様子です。

「ああっ。これって何年も前に期間限定でやっていた、当たりが出たら缶にあのアニメのフィギュアが付いてくるやつじゃないですか。まだO-SAKAではこんなの売ってるんだ。信じられない」

自販機に張ってあるポスターを見てホイホイくんが叫んでいます。

「そうだ。オフ会に参加した皆さんに差し入れしよう」

言い放つとホイホイくんは財布からありったけの小銭を取り出して、次々と自動販売機に注ぎ込んでいます。他のオフ会参加者に飲み物を差し入れするなどと言いながら、実は当たりに付いてくるフィギュアが目的の様子です。結構、ホイホイくん良い格好しいの割にはオタクな奴です。

蟲ババ様もマーコも、突然出現した変なおじさんの奇行を呆然と眺めています。

「しかし、何でこの鈍感男が此方の世界に足を踏み入れる事がでけたんや」

不思議に思った蟲ババ様が、気味の悪い表情で一心不乱に自販機に小銭を注ぎ込むホイホイくんに目を向けると、普段は見えちゃう能力者たる蟲ババ様の力を持ってしても、その強力な霊力の前では気配を捕らえる事すら出来なかった彼の守護霊が浮かび上がってきました。額飾帯をしたアイヌ装束らしき衣装に身を固めた髭面の男性です。しかし、豪華な飾りを施した腰刀と呼ばれる鍔のない細身の刀を腰に差しているあたりは古の侍を彷彿とさせます。こんな正体不明の髭親父が蟲ババ様に向かって、厳つい顔をニコリと崩して笑っています。

蟲ババ様、彼の守護霊を見るのは初めてですが、なかなか粋な計らいをしてくれます。

「取り敢えず、参加者の人数分十五本買って当たりは三つか。まずまずの確率」

そう言っているホイホイくん、もう蟲ババ様の姿すら眼中にない模様です。

早速、当たりに付いていたプラスチックを外します。当たりのフィギュアは五種類。最初に出てきたのは、子供向けアニメには相応しくない女王様スタイルのスラリとした敵役でした。見ようによっては、ちょっとSMチックなコスチュームです。

「出た。出た。出た。これですよ。これ、これが欲しかったんですよ」
 
ホイホイくん、完全に顔がにやけています。ちょっと危ないおじさんです。二つ目も同じものが出てきました。

「ホラ、ホラ、ホラ。これで一つを飾り、もう一つを保管用に取っておける。やっぱり僕って普段の行いが良いですからね」

トンデモナイ馬鹿な解釈ですが、ホイホイくんは有頂天です。思考も完全にマニア思考です。

最後に出てきたのは、マーコが当てたのと同じ、番組のマスコット的な可愛らしいキャラクターでした。

「最後はこれか。こんな子供向きフィギュア、オタクぢゃあるまいし、いらない。もっと他のが当たれば良かったのに」

典型的オタク親父が何か言っています。

「なぁ、ホイホイくん。アンタ、最後に出てきた人形、いらへんのか。だったらくれへん」

まるで外れ籤を引いたようなホイホイくんに蟲ババ様が問い掛けました。

「駄目ですよぅ。このフィギュア、今ではどれもレアものなんですよ」

「だって、アンタ。さっきの言いようから察するに、その子供向け人形はいらへんのやろ」

「イヤ・・・だからこれは・・・」

「だから、これはって。なんやねん。アンタ参加者のみんなに差し入れする為にお茶買うたんやろ。違うんかい」

蟲ババ様が特異の宇虫人フェイス全開でホイホイくんにお強請りします。

その迫力に気圧されたのはホイホイくんばかりではありません。彼にゾロゾロ付いていた魑魅魍魎も、自らの危機を感じてザワザワとし始めました。ホイホイくんの背筋に冷たいものが走ります。

「は、はひ。どうぞどうぞ。喜んで差し上げます」

ホイホイくんは恭しくババ様にフィギュアを差し出しました。

「そ、それと。これ好きなの一本取ってください。蟲ババ様の分です」

ホイホイくんが抱えた缶ジュースの中から適当にババ様は一本抜き取りました。

「ありがとな」

そんな蟲ババ様の御礼に返事もせずにホイホイくんはその場を退散します。まるでこれ以上、蟲ババ様と一緒にいて厄介事に巻き込まれるのは御免だ。と、でも言わんばかりの遁走ぶりです。大量の缶ジュースを胸に抱えて去っていく、その姿はお間抜け以外の何者でもありません。

蟲ババ様はマーコにフィギュアを差し出しました。

「ほら、これでマーコとお姉ちゃんと。同じ人形が一つずつや」

「ええんか?本当にこれ貰おて、ええんか?おばちゃん」

「ああ、ええよ」

「おおきに、おおきに。ありがとな、おばちゃん」

マーコはフィギュアと缶を大事そうに胸元に抱えて、蟲ババ様を見上げると嬉しそうに笑いました。

顔の造作は、決して整ってはいません。あまりお風呂にも入らないのか、清潔でもありません。低い鼻の下で大きく開かれた口からは、二本の前歯が抜け落ちています。

それでも、ババ様はこれほど嬉しそうな表情をした子供を見るのは初めてでした。ふっくらした林檎色の頬を広げ、大きな口を開けて微笑むマーコをこの上もなく愛おしく感じました。

「ほんま、アンタはかぁいらしい子やなぁ」

言いながら、マーコの頭に掌を乗せて撫でた、その瞬間の出来事です。マーコの身体からババ様の掌を経て、カタチを持たない物の怪がババ様の体内に入ってきました。

「しまった!やられた!」

頭の先まで電撃様の痺れが痛みとなって伝わり、ババ様の精神の中に怪しげな気配が侵入してきます。

物の怪に囚われた!

そう思ったババ様の耳に、微かな声が聞こえてきます。

「ゴメンなマーコ、逢いたいよぉ」

「逢って謝りたいよぉ」

「でも、アンタはウチに逢いに来ちゃ駄目だ」

「ずっと其処にいなきゃ駄目だ」

胸を搔き毟りたくなるほどの深い後悔と懺悔が蟲ババ様の心に語り掛けてきました。

マーコの頭を撫でていた蟲ババ様の手が離れ、自分の額にそっと添えられます。

「これが、この物の怪のもう一つのよりしろ。物の怪の本体」

蟲ババ様は身体が宙に浮くような錯覚に襲われます。物の怪はババ様に何かを伝えたい様子です。

「もう一つのよりしろ。物の怪の本当の正体は、姉のケーコ」



蟲ババ様の視界が一変します。それは河原に腰を掛け、夕日を眺めて刻を過ごす二人の子供です、一人はマーコでした、おそらくもう一人が物の怪の本体、姉のケーコでしょう。

「これは、物の怪が見せているのか」

蟲ババ様が二人に近付きますが、二人はその気配を全く感じていません。この光景は、姉であるケーコの記憶を、彼女の想いと共にカタチを成した物の怪が蟲ババ様に見せているのでしょう。



ま~だ、まだ……つづく。
 

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えーと?

・・・10年前のジュース?( ̄▽ ̄||;)
(* ̄m ̄)ノムフフ
こんにちは、なおこ様。

ジュース自体が幽霊のようなものですから。
時間や賞味期限はあまり気にしないで下さい。
飽く迄、物の怪が作り出した観念の世界での出来事ですw
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