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課題が見出される底辺

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蟲ババ様~ババ様は白衣の天使!?の巻(3)


その夜は村中総出で麻里ちゃんを捜索しましたが、結局、麻里ちゃんの姿は見付かりませんでした。

翌日も村の人たちが麻里ちゃんを捜して森へと入っていきます。

その日は、猛暑の続く中でも最高気温を記録しました。五月蠅過ぎる蝉たちの合唱が響く中、捜索は森の脇を流れる川の下流や、森の奥深くまで範囲を広げて行われました。それでも、良い報告はありません。

「神隠しにでも遭ったのか。誘拐されたのか」

地元の警察をも巻き込んで捜索が続いた三日目の事です。麻里ちゃんは変わり果てた姿で発見されました。

かくれんぼをしていて、不法投棄された自動車のトランクが少しだけ空いていたのに気が付いた麻里ちゃんは、其処に隠れたのでしょう。しかし、彼女が身体をトランクに埋めた弾みでドアが完全に閉まってしまったらしいのです。

皆が探していた時はつい眠ってしまっていたのでしょうか。気が付けば中からトランクを開ける事は出来ません。車内に比べれば幾分温度は低いものの、やはり記録的な猛暑です。麻里ちゃんの体力はほんの数日間も持ち堪える事が出来なかったのでしょう。

ホイホイくんは村の人たちの噂で、麻里ちゃんが如何なったかを知りました。誰も子供たちには詳しい話をしてくれなかったのです。でも、ホイホイくんには分かりました。あの時の自動車の中に麻里ちゃんが居たんだと。

お葬式にホイホイくんが参列した時も、同級生たちが一列に並んで順番に花を手向ける時になると、棺桶の蓋は閉じられ、麻里ちゃんの足元の方だけが少し開け放たれ、その場所に一人一人が花を入れていきました。

「麻里ちゃんに会いたいよぉ。麻里ちゃんの顔を見せてよぉ」

滅多に自己主張しないホイホイくんが泣いて叫んでも、大人たちは聞き入れてくれませんでした。

その後、夏休み中だというのに全校生徒が小学校に集められ、校長先生から生徒たちにこの学校のお友達が一人亡くなった事、絶対に子供たちだけでは森に入ってはいけない事などが言い渡されましたが、もう其処には麻里ちゃんの姿はありません。先生の話もホイホイくんの耳には何も届いてはいません。

程なくして、父親は元通りN-YAGOYAへと勤め先が変わり、ホイホイくんも夏休みの内にN-YAGOYAへと戻る事になりました。

心の中には複雑なものがありましたが、反面、ほっとしている処があったことも否定出来ません。麻里ちゃんの居ない学校、麻里ちゃんの居ない教室は、其処にいるだけで辛過ぎます。他の同級生には悪い気もしましたが、まだ小学生のホイホイくんは、麻里ちゃんの想い出から逃げ出すようにして、両親と共にN-YAGOYAへと引っ越していきました。
 


既にホイホイくんも三十半ばです。決して麻里ちゃんの事を忘れた分けではないでしょう。

しかし、慌ただしい日常の中で、麻里ちゃんとの想い出も、あの山奥でも生活も記憶の奥深くに埋没していた事は否定出来ません。

ホイホイくんはじっと写真を見詰めます。見れば見るほど、朧気な白い靄は麻里ちゃんのあどけない顔に見えてきます。

「麻里ちゃん。麻里ちゃん。麻里ちゃん」

何度も何度も、ホイホイくんはその名を呼びます。

子供の頃は分かりませんでした。

でも、大人になった今になって、漸く分かる事柄もあります。

何となく気になる麻里ちゃんにばかり意地悪をして、一番最初に見付けようとした自分。それを分かっていて意地になって探し当てるのに困難な場所ばかりを選んで隠れる麻里ちゃん。

自分たちだけの暗黙の了解とも云える、不器用な感情の衝突と、意地の張り合いが麻里ちゃんをトランクの中に隠れさせたのだとしたら。ホイホイくんは、自分が麻里ちゃんをあの危険な場所に導いてしまったような気になってきます。

そうなると、写真の中だけではありません。寝ても覚めても麻里ちゃんの顔が瞼にちらつきます。

そこで次の休日、ホイホイくんは何十年ぶりかにあの村、K-TAINAKAへと足を運びました。

其処には、嘗ての面影は何処にもありません、K-TAINAKAは大きく変貌し、市へと発展していたのです。

ホイホイくんが居た頃は無人駅だった建物はモダンな今風の建築物に様変わりし、駅前の通りにはコンビニや商店が並んでいます。

N-YAGOYAのベッドタウンとして急成長したこの地域は、記憶の中にある長閑な村とは掛け離れた騒々しさが町中に散乱しています。しかし、その御陰で彼の通っていた小学校近くまでのバスの本数も増え、思ったよりも簡単に辿り着く事が出来ました。子供の頃はあれほど遠く遙かな存在だった村が、今では街として成長し続け、直ぐ近くに存在するようです。

一クラス、十数人だった小さな小学校も、今では大きな鉄筋の校舎になっています。でも不思議な事に、幼い頃はあれほど広かった運動場が、今では狭く、立派な校舎に圧倒されるが如くに窮屈そうにしています。

校舎裏の森も開発が進み、山は削られて新興住宅地となっていました。昔のような鬱蒼とした神秘性は微塵も感じられません。

森の奥へと続く道も舗装され、ホイホイくんは目的地が見付かるか如何か、不安になってきました。が、幸い彼の探していた場所は、幼い頃のままに残っていました。勿論、昔のような放置自動車がある分けではありません。袋小路になっている分けでもありません。道はずっと、緑を失った山の奥まで続いています。この空き地は、大型車が切り返しなどをする為に残されている。と、通りすがりの人から聞きました。

ホイホイくんは、其処だけ未舗装な広場に佇みます。周囲には真新しい住宅が傾斜沿いに並んでいますが、この場所だけが昔の面影を残しています。

直ぐに、麻里ちゃんが隠れていた車の位置が分かりました。ゆっくりと歩を進め、車のあった場所の前で立ち止まります。

ホイホイくんは持参した花束を地面に置き、お線香に火を点けようとしました。

その瞬間。

「ちょっとちょっと、君。一体何のつもりだ」

後ろから声を掛けられました。其処には厳つい体格の中年おじさんと奥さんらしき人が居ます。その声に道行く人たちも、ホイホイくんに目を向けました。

昔と違って、今では此処も人通りも多く、沢山の人たちが行き交っています。

今も昔も変わらないのは、ホイホイくんの挙動不審ぶりでしょう。見るからに怪しげな人物です。きっと、急にジッポのライターで火を点けだしたものですから、怪しげな放火魔あたりと勘違いされたに違いありません。

「不審な奴だ」

声を掛けたおじさんはホイホイくんに歩み寄ってきます。その騒動に近所の人たちも庭からホイホイくんを覗き見ました。

ホイホイくんは、昔、自分が此処の近くに住んでいた事、同級生がこの場所で亡くなった事、自分は久しぶりに此処を訪れたのでせめて線香の一本も手向けたいと思った事、などをしどろもどろに説明します。

「最近は物騒だから」

おじさんはホイホイくんの説明に納得はしてくれた様子です。近所の人たちも集まりましたが、その中にホイホイくんの覚えのある顔は見当たりません、麻里ちゃんの事を知る人も居ませんでした。

「火だけは十分に注意してくれよ。それから、何時までもそんな所に花を放置しておくと困るから、気が済んだ
ら持って帰ってくれ」

おじさんがそれだけ言うと、周囲の人たちも納得したのか皆、帰って行きました。幸い、隣の住宅の人がバケツに水を汲んで置いていってくれたのでホイホイくんも大助かりです。

しかし、線香に火を点けたもののホイホイくん、何を如何して良いやらさっぱり見当もつきません。

ゆらゆらと舞い上がる線香の煙を暫し見詰めながら、思い悩んだ挙げに句に口から出た言葉は。

「麻里ちゃん、見ぃつけた」

・・・馬鹿です・・・。

救いようのない愚物です。

もう、この男は気の毒だから、そっとしておいてやる以外にはないだろう。と、云う位の大虚けです。

が、不思議な事に。

「あーあ。とうとう見付かっちゃった」

揺蕩う煙の中から微かに麻里ちゃんの声が聞こえたような気がしました。

「遅いぞ、ホイホイくん。って、また私が鬼なのぉ」

続いて声が聞こえます。ホイホイ君はそれを、嬉しそうに笑っているような口調に感じました。

「そんな事ないよ。今回は麻里ちゃん頑張ったから。最後まで見付けられなかった」

何気に発したホイホイくんの言葉が終わらないうちに。

「やったね」

麻里ちゃんの声が重なります。

「うん。麻里ちゃんは鬼になんかなるもんか」

柄にもなくホイホイくんは、次第に目元が潤んでくるのを抑えきれません。

「当たり前でしょぅ。ホイホイくんが私を出し抜こうなんて百年早いわよ」

「うん、そうだね。僕は何をやっても麻里ちゃんには適わない」

「情けないなぁ。男の癖に」

麻里ちゃんの声が煙と共にゆらゆらと揺れています、姿は見えません。

「あのさぁ、ホイホイくん。私さぁ」

麻里ちゃんには、何か言いたい事がある様子ですが、言い出せないみたいです。

「ははははは」

言いたいことが言葉に出来ないままに躊躇っていた麻里ちゃんが、突然、笑い出しました。

懐かしさと、ほんの少しの湿り気を帯びた麻里ちゃんの笑い声がホイホイくんの耳に響きます。

「ははははは」

ホイホイくんもつられて笑い出しました。目に一杯の涙を浮かべながら笑っています。

「ははははは」

「ははははは」

どちらの声も深い悲しみをそっと忍ばせて、楽しそうに笑っています。

燃え尽きた線香の最後の煙が、静かに静かに天へと昇っていきます。麻里ちゃんの笑い声は次第にか細いものへと変わっていきました。

「ねぇ、ホイホイくん。私ずうぅぅーーっと待ってるから、今度逢ったら、また一緒にかくれんぼしようね」

その言葉を最後に、麻里ちゃんの声は真っ青な空へと吸い込まれていきました。

「うん。何時の日かきっと」

そう答えたホイホイくんの声が麻里ちゃんに届いたか如何かは、彼にも分かりません。

只、ホイホイくんは何時までも何時までも、煙の消えていった空を泣きながら見上げていました。
 

 季節は過ぎ、またしてもホイホイくんが利用しているチャットのオフ会が催されました。今回は蟲ババ様も参加です。

「はじめまして」

声を掛けたホイホイくんに。

「あはははは。一目で誰だか分かったで」

蟲ババ様は意味ありげに答えます。

「以前の写真に写っていた女の子。有り難うございます」

「へっ、女の子って。何のこっちゃ」

ホイホイくんの言葉に、蟲ババ様はまるで心当たりがないような返事を返します。

「ほらほら、あのI-NAMURAGASAKIでオーヴに囲まれていた写真に写っていた女の子。御陰でもう写真を見ても女の子の姿はありません」

「ウジャウジャとオーヴが写っていた写真は知っとるけど、女の子って?」

不思議そうにホイホイくんの顔を正面から見据えた蟲ババ様、急に目を逸らすと。

「ちょ、ちょっとごめんな」

と声を掛けると、お手洗いに走っていきました。

どうやら、写真に写った女の子。と、云うのはその場で取り繕った出任せだったのかもしれません。結局、蟲ババ様はホイホイくんの顔を見るとつい戻してしまう。と、言う事で今回は目出度く一件落着の様子です。

しかしその後も、オフ会などで蟲ババ様に会う度、ホイホイくんは摩訶不思議な現象に見舞われ、何時も何時も酷い目に遭っています。

ホイホイくんとしては、蟲ババ様が何某かの災厄をばら撒いているのだとしか思えません。

「もう嫌だ。絶対、嫌だ。あの蟲ババ様が参加するならオフ会はキャンセルだ」

ホイホイくんが、そう心に決めた瞬間、彼が手にしていた携帯電話から着信メロディが流れ始めました。
 
つづく。
 

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いなむらがさきってどこぉ?

 
ヽ`、ヽ`个o(・_・。)`ヽ、`ヽ、
こんにちは、なおこ様。

♪ いなむらがさきは
      きょうも あめ ♪
と、サザンの歌になった所です。

元々、鎌倉オフ会で日没のいなむらがさきを見に行った時に写真を撮ったら、変なワッカみたいなものがウヨウヨ、ワラワラと宙に舞っていたので、それをネタにババ様を書き始めたに過ぎません。

因みに、ババ様のモデルになった人は「水辺にそう云うモンが集まりやすいのは至極普通の事、それに色々曰くありげな海岸だし」との事でした。
本人はその時参加していなかったんですがね。

全然、普通ぢゃないだろ!
あんな写真(爆)。
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