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蟲ババ様~ババ様は白衣の天使!?の巻(2)
弐
「今度のオフ会には、蟲ババ様も参加するんですかぁ。嫌な予感がする」
ホイホイくんが携帯電話を握り締めて小声でぼやいています。次の日曜日に開催されるオフ会集合場所とメンバー確認の為に幹事に連絡を取った時の事です。
「何と言っても、蟲ババ様は地元ですから。私は始めてお会いするので楽しみにしていますが」
幹事となった女性の声が、手にした携帯電話から微かに聞こえてきます。用件が終わって電話を切った後に、ホイホイくんは大きな溜息を一つ吐きました。
「嗚呼。あの蟲ババ様と関わると、何時も何時もろくな事がない」
ホイホイくんは、既にオフ会で何度も蟲ババ様と会っていますが、その度に摩訶不思議な経験をします。御世辞にも愉快だとは思えないような体験ばかりです。
「都合が悪くなったからと、キャンセルでもしてやろうか」
言いながら、ホイホイくんは噂では聞いていた、蟲ババ様の見えちゃう能力を始めて知った時の事を思い出していました。
ホイホイくんは蟲ババ様と同世代、自営業をしていますが、お店は何時も閑古鳥の巣窟状態。基本的に暇人なので平日の日中から、チャットに入り浸りです。が、其処は平日の真っ昼間、社会人ばかりが屯するチャットに人が居るとは思えません。誰も居ないチャットに入室し、つらつらと独り言を書き込みながら、誰かが入ってくるのを待っていたら、一人の入室者がありました。非番の日に家事を終えた蟲ババ様です。
蟲ババ様は先日、チャットで初めて開催されたオフ会に残念ながら参加できませんでした。初めてネット上の仲間がK-AMAKURAに集まったのですから、その様子を知りたいからせめて写真でも。と、他の人から数枚の写真を送って貰ったらしいのですが・・・
「なんやねん、あの写真。ホイホイくんの写真、一目見て思わず吐いてもうたで」
蟲ババ様は挨拶もそこそこに、いきなりこう発言しました。
「酷いですよぉ。ホイホイの顔見て、思わず吐いちゃったって。何ですか、それは」
ホイホイくんも、唐突な発言に如何リアクションを起こせば良いか分からない様子です。
「そりゃ、地球制服を企む秘密結社の改造人間みたいな顔してますよ、僕は。確かに、普通の女性なら一目見ただけで不愉快になる顔立ちですよ。だからって、写真見ただけで吐いたって、いきなりそれをネタにする事ないでしょう」
しかし、蟲ババ様からは予想もしない返事が返ってきました。
「なーに勘違いしてけつかんねん。ホイホイくんの顔を見て吐き気がしたんやのうて、アレがぎょうさん写っていたからやないか」
「アレ・・・アレですか」
言われてみて、ホイホイくんにも心当たりがあります。認めたくはない心当たりです。
写真はI-NAMURAGASAKIで撮った写真です。
日没直後、曇天の空と水平線をバックに、一人ホイホイくんが写っている写真です。
深い紫に染まった空と暗い海、その境界線が次第に曖昧になっていく瞬間を背に、ホイホイくんが間抜けなポーズで写っています。逢魔が時と呼ばれる誰彼刻の一瞬を切り取った美しい写真です。お茶目なポーズで戯けている一人の親父を除けば。
彼の周囲には霧状の輪っかが数え切れないほど朧に浮かんでいます。
デジカメのレンズに波の飛沫がかかったのでしょうか、それとも、飛んでいる飛沫をデジカメが一瞬にして捕らえた瞬間故の悪戯でしょうか。蟲ババ様が見たと云う写真は、確かにホイホイくんも気にしていた不可思議な写真でした。
「こんなに沢山のオーヴに囲まれて、やはり幽霊ホイホイの渾名は伊達ぢゃない」
蟲ババ様の言葉にホイホイくんがたじろぎます。
「これは波飛沫ですよぉ。そんなおっかない現象ではないですよ。それに、そんな渾名で呼んでいるのは蟲ババ様だけです」
根っから気弱で小心者、ホラー・オカルト大嫌いなホイホイくんは、認めたくない故に必死で抗弁しています。
「水辺に彼方の人たちが集まるんは日常風景、珍しい事やあらへんから騒ぐ事もないのに。それに、歴史的にも色々曰く有りそうな海岸やし」
「イヤ、普通に珍しいでしょうが、こんな写真。て、これだけ正体不明の輪っかが沢山飛んでいたら、誰か気が付く筈なのに誰も何も感じなかったんだから、飛んでいるのは間違いなく飛沫でしょう」
「オーヴだけやあらへん。アンタの周りにはウジャウジャ、ワラワラとぎょーさん居てはるやないか」
「不思議な輪っかが沢山浮いているのは見えますが、他に誰も映ってないですよ」
「アンタには見えへんかも知れへんけどなぁ。でも。ほらほら、此処には女の子の顔まではっきり写っとりまっせ」
「へっ、女の子」
蟲ババ様の言葉にホイホイくん吃驚です。早速、オフ会のカメラ担当者から送られて来た写真を、PCの保存先から引っ張り出してきます。
「ほらほら。この左の肩口にちゃんと、小さな女の子の顔が写っとるやろう。ホイホイくんに寄り添うように」
蟲ババ様に説明を受けて、何度も写真を見直しますが、ホイホイくんには全く女の子の顔など見えません。確かに、言われた肩口にはブレたような異様なものが写り込んでいますが、それは背景となっている仄暗さを増した水平線の光源の加減でしょう。
「全然、分からないですよ。女の子なんて」
「見える人にしか見えへんやろうから、確認でけへんでも仕方あらへんけどな」
「仕方ないって・・・でも、そんなこと言われたら気味が悪いじゃないですか」
「大丈夫、大丈夫。私の見る限り、悪い事する子には見えへん。第一、こんなに引き連れていてもホイホイくんに何の影響もないちゅーことは、アンタの守護霊はごっつう強力な証拠やで。その守護霊はんの御陰で悪いもんはアンタに近付けへんやろから、安心せいや。周囲におるんは無害な霊ばっかりや。まぁ、普通に見えちゃうもんにとっては、ホイホイくんを取り巻いている人の多さに圧倒されて堪らんやろけどな」
「そんな言い方されたら。全然、安心出来ません。」
蟲ババ様はサラリと言ってのけますが、言われた方は大丈夫ではありません。
「僕は女性に、しかも女の子に恨まれる覚えなんて全くないんですが。異性に対する恨み辛みなら山ほど有りますが」
「うん。この子はホイホイくんを恨んで付きまとっている訳ではあらへん。慕ってずっと寄り添っている感じやなぁ」
「余計、気味が悪いですよ。其処に居るだけの地縛霊や浮遊霊ではなくて、ずっと僕に寄り添っているなんて」
蟲ババ様が、発言を重ねる度にホイホイくんの不安は増大していきます。
「自慢ではないですが、僕は生まれてこの方、慕ってくれる女性になんて巡り会った事もないですし」
「良ぇやないか。この子は人にちょっかいかける類の悪い霊ではなさそうだし。こんな幼気な子が寄って来るなんて、優しい人の証拠やないか」
「優しいだけでは女性はついてきてくれません。それ以前に、人から優しいだなんて言われた事もありません」
「でも、彼方の人たちはホイホイくんの事を優しいと思ってウジャウジャ・ワラワラ・ゾロゾロと集まって来るんやないかなぁ。ははははは」
蟲ババ様は楽しそうですが、ホイホイくんは少しも愉快ではありません。
ホイホイくんは、チャットから退室した後も、黙々と件の写真に見入っています。如何しても、 蟲ババ様の言葉が耳から離れません。
じっと写真を見入っていると、なんだか本当に女の子の顔が写って見えるから不思議です。
写真を拡大したり、露出を調整してみたり。色々試行錯誤していくうちにホイホイくんにも何やら人の顔らしきものが見えてくるようになってきました。気弱で小心者のホイホイくん。基本的に暗示にかかり易い性質です。
時の経つのも忘れて写真を食い入るように見詰めていたホイホイくんですが。
「あっ。麻里ちゃん」
朧気に見える顔らしきものを記憶の底から修正し、その糸を手繰り寄せているうちに幼馴染みの面影を捜し当てたのでしょう、急に声を漏らしました。
麻里ちゃんは、ホイホイくんが親の転勤で隣県の山の奥の奥、大きな森に囲まれた小さな集落に住んでいた頃の友達でした。K-TAINAKAと呼ばれる過疎の進んだ村です。
父親が務めていた職場で大きな取引に大失敗をしてしまい、懲罰的な転勤を余儀なくされていた当時の事です。
ホイホイくんはその村に来て直ぐに小学校に入学し、三年あまり暮らしていました。
麻里ちゃんはもしかしたら、ホイホイくんの初恋の人だったかも知れません。勿論、幼いホイホイくんにそんな自覚があったか如何かは、今となってはホイホイくん自身にも分かりません。
突然、N-YAGOYAの中心部から大自然の真っ直中にあるような山村に引っ越ししてきたのですから、幼稚園児代の友達など当然居ません。普通に山道を歩けば出会す蛇や蜥蜴、果ては虻や蚯蚓が怖いからと家に引きこもり気味のホイホイくんは、村の子供たちともなかなか馴染めないままに、小学校へ通っていました。
何より野山を駆け回って育ってきた精悍な村の子供たちに比べ、青白い顔をした小柄なホイホイくんは「幽霊」とか「お化け」と渾名されていました。子供たちは彼の姿を見ると、蜘蛛の子を散らすように囃し立てて逃げて行ってしまいます。そんな中、同級生の麻里ちゃんだけはきっちりとホイホイくんの顔を正面から見据え、ちゃんと話し相手になってくれました。
色の白い利発な子で、ちょっぴり細面の気の強そうな顔立ちをした麻里ちゃんは、十数人しか居ないクラスの纏め役的存在でした。その麻里ちゃんが後ろ盾となる事で、ホイホイくんも村の仲間たちに徐々に馴染んでいったのです。
麻里ちゃんは、村に来たばかりのホイホイくんを皆にしっかり溶け込ませるのが自分の役目だと思ったのか、仲間はずれのホイホイくんを可哀想に思ったのか、それともホイホイくんに気があったのか、麻里ちゃんの居なくなった今となっては、理由は分かりません。
小学校の裏手には深い深い森が聳えていました。子供の頃から気弱なホイホイくんは気味悪がって一人では決して近付こうともしない森です。鬱蒼と茂った木々に遮られて日の光は届かず、昼なお暗い朦朧とした空気を発散させながら、村を見下ろすように佇む深い山々へと口を開く魔性の森です。
校則でも、子供だけで森へは入らないように定められていました。
しかし、活発な子供たちにとっては、校則を破る。と云う行為は、ちょっぴり大人びて魅力的な、自分たちだけの秘密めいた素敵な魔力を秘めています。
特に小学三年生になり、急に大人びてきた頼れる麻里姉さんが一緒だと、安心して森へ入って遊ぶようになりました。彼女と行動を共にする限り、お節介ばかり焼くクラスメートの女の子も絶対に先生に告げ口することはありません。
おそらくは気付いていたであろう学校の先生たちも、校則とは云え多少の事は大らかに黙認していた節があります。
ホイホイくんが小学三年生の夏休み。その年は村でも記録的な猛暑でした。ちょうど、夏休みも中盤を迎えた八月中旬の出校日、久しぶりに学校に集まった同級生たちは、その帰り道に、森に入って遊んでいました。
麻里ちゃんが、ここから此処までの範囲でかくれんぼ。其処から先は危ないから入っちゃ駄目。などと言って場を仕切っています。当然、要領の悪いホイホイくんは高確率で鬼になります。鬼になったホイホイくんは、唯一気心の許せる麻里ちゃんだったからなのか、それとも幼い子供特有の、気になる女の子をからかって、ちょっかいを出したい病が頭を擡げたのか、一番最初に麻里ちゃんを見つけないと気が済みません。他の同級生を見つけても、気が付かないふりをして一生懸命に麻里ちゃんを捜し、さも最初に見つけたような顔をして「麻里ちゃん、見ぃつけた。今度は麻里ちゃんが鬼だ」と嬉しそうにはしゃぎます。
負けん気の強い麻里ちゃんは、ホイホイくんが鬼になる度、見つけ難い場所を探しては隠れます。
そんな事を繰り返している内に、幾ら探しても麻里ちゃんの姿が見当たらなくなりました。既に長かった陽も西に傾いて、空を赤く染めています。空気も幾分とひんやりしてきました。
鬼だったホイホイくんも他の仲間を見つけ出して声をかけ、皆で一緒に麻里ちゃんを捜します。きっと、麻里ちゃんはしてやったり。と、ほくそ笑んでずっと姿を隠しているつもりなのでしょう。
しかし、何時まで経っても麻里ちゃんは見付かりません、誰もが不安を抱き始めた頃、同じく校則を破って森の奥まで入って遊んでいた上級生たちも合流します。それでも、麻里ちゃんの姿は見当たりません。
森は徐々に暗さを増し、不気味な気配を漂わせて子供たちに重圧をかけてきます。遠く聞こえる烏の鳴き声や黄昏に彷徨う蝙蝠の姿が、夜の訪れを告げ始めました。
「もしかしたら、一人で先に帰ったんじゃ」
同級生の一人がそう言って、麻里ちゃんの家まで様子を見に行きました。でも、本当は誰一人麻里ちゃんが黙って先に帰ってしまうなどとは考えていませんでした。
案の定、事情を知った麻里ちゃんのお母さんや近所の大人たちが森へやって来て、子供たちと一緒に麻里ちゃんを捜します。
「おーい、麻里ちゃん」
「何処にいるの。麻里ちゃーん」
仕事帰りのお父さんたちも混じって捜索が行われましたが、麻里ちゃんは何処にも居ません。ホイホイくんたち子供たちは、暗くなってきたから。と、保護者に付き添われて帰宅する事になりました。
その途中です。
「ふふふふふ」
ホイホイくんは、麻里ちゃんの勝ち誇ったような、悪戯っぽい含み笑いを聞いたような気がしました。
場所は、麻里ちゃんが「此処から先は行っちゃ駄目」と指定したギリギリの境界線上、細い凸凹道の袋小路に当たる場所です。辛うじて車が通れる道である為、都会からの不法投棄された何台もの自動車がナンバープレートを外され、雨ざらしになって骸を晒しています。
麻里ちゃんに呼ばれたような気がして、ホイホイくんはその中の一台の車に近付きました。袋小路の奥の方、鬱蒼とした木々に隠れるように放置された車です。背伸びをして、曇ったドア硝子から中を覗き込みますが、泥に汚れた硝子越しでは中が良く確認できません。一緒に家路についていた同級生のお母さんが、錆びて重くなった車のドアを開けてくれましたが、やはり麻里ちゃんの姿は見当たりませんでした。
「此処は先程探したから、中には誰も居ないでしょう。さぁ、ホイホイくん、心配せずに早くお家に帰りましょう。きっと、麻里ちゃんは見付かるから」
そのお母さんは、ホイホイくんの背中に手を当てて山道を下ります。
「また明日。麻里ちゃんや家の子と一緒に遊んでね」
友人のお母さんにそう言われて、ホイホイくんが家に着くのと入れ違いに、彼のお父さんが勤めから帰って来ました。話を聞いたお父さんも、麻里ちゃんの捜索に加わる為に外へ出て行きます。ホイホイくんは大好きだったテレビ番組を見ていても、気が気ではありません。
つづく。
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えええええええ(*o*)
てっきり20代前半、下手すりゃ大学生と思っていたのに。
ちなみに、なんですかな、これは空×ジ・Oさんの初恋の思ひ出ですかな(^m^)
(ー_ー)vチッチッチ
別に、ホイホイくんの年齢設定は何歳でも良かったのですが(爆)。
いっその事、10代後半くらいにしておいて、ラノベとして書いてみようか♪
て、この年で無理だ。
何故、空×ジ・Oが出てくるのかよく分かりませんが(汗)。
一応、蟲ババ様のモデルになった方が人のことを「幽霊ホイホイ」とか「吸引機」と呼ぶので、名前を取っただけなのですがw