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「蟲ババ様~宇虫人顔のババ様、落書き顔の死神と対峙する!のまき(4)」
悪霊や、魑魅魍魎たちを癒やし続ける少女に目を向けました。
「あの子の母親は、シングルマザー。しかも夜の仕事をしていたんですよ。あの子が生まれて、養うために昼間も仕事を始めた。家出同然に田舎を飛び出して来たこともあって、意地でも自分一人の手で育てようとしたのでしょうね。あの子、生まれながらにして、ああなんですよ。ですから、なかなか友達も出来ません。唯一、あの子が心を許した友達がお兄ちゃんだった。いつも、この場所に佇むお兄ちゃん」
死神はにっこりと微笑みました。
元々、四角い顔に菱形を埋め込んだ笑ってばかりの落書きのような顔ですが。
「初めて出逢ったのは、あの子が五歳くらいの頃でしょうか。いつも、一人寂しく留守番をしているあの子がそこの角のコンビニに買い物に来た時だったと思います。それから毎日のように、あの子はお兄ちゃんに会いに来ました。この場所で、お兄ちゃんは何も食べず、眠りもせず、あの子が成長しても、お兄ちゃんはずっとこの姿のまま、この場所であの子を待っていました。お互いの寂しさを埋め合わせるように」
「で、そのお兄ちゃんは何処へ行ったんや。なんで、死神がお兄ちゃんの真似しとんのや」
「お兄ちゃんですか」
死神は黙って空を指さしました。
「自分の行くべき所へ還ったちゅーわけかいな」
「もう三年にもなりますかねぇ。その後もあの子は此処に来ては、居もしないお兄ちゃんの姿を探し求めていたんですよ。ずっと、お兄ちゃんを待ち続けていたんです。私がお兄ちゃんの姿を借りてあのこの前に姿を現したのは、ちょうど一年程前でしょうか。貴女が探している人が、この地に巣くう強力な悪霊を滅ぼした後です。悪霊自体はこの東にある運河近辺に根を張って活動していましたが、あの子が取り込まれなかったのは運が良かったのでしょう」
「いいや。運が良かったんちゃうで」
蟲ババ様は自分に向けられる視線に気付きました。角のコンビニから出てきた、まだ若い主婦らしき女性が、少女をずっと注視している蟲ババ様に立ち止まって視線を向けています。
「で、なんであの子はあんなことしとんねん。無害な妖や精霊だけなら兎に角、悪霊の疵まで癒やしとるやないか」
「あの子にはヒトも妖も関係ないのです。目の前で困ったり苦しんだりしているから、それを助けようとしているに過ぎません。それがあの子の現世での勤めでもありますから」
「悪霊を助けることがかいな」
「そうです」
「相手が誰だろうと、悪霊に手助けるんのを黙って見過ごす分けにいくかいな」
蟲ババ様は、植え込みの敷石に腰掛ける少女へと足を向けました。しかし、彼女に手当を受けている蓑虫男の異変を察知してその足がピタリと止まります。蓑虫男から発せられる邪悪な気が、少女の放つ光によって徐々に薄らいでいくのです。
「分かりましたか」
死神が立ち止まったババ様の耳元で囁きました。
「悪霊を悪霊たらしめている原因、それをあの子は取り除いているのです」
「なんやねん。それ」
「心の疵です。心の奥深くに根付いた疵こそが悪霊を悪霊たらしめているのです。その疵が癒えることで、悪霊は自らのアイデンティティを喪失していくのです。急には無理ですが、この子は根気よく、毎日それを繰り返しています」
「それで、此処に棲まう悪霊共は程度の差こそあれ、どれもこれも悪霊としての存在感が希薄だった分けかい」
死神の言葉を聞きながら、蟲ババ様は少女の脇に蹲り、彼女の手当を黙って見詰め続けています。少女の手から零れ出す光は、優しい調べ姿を変えて妖や悪霊、魑魅魍魎たちの胸に歌声となって染み込んでいきます。
「此処に居る妖たちの多くは磁場に呼び込まれた悪霊たちです。この子の力で心の疵跡を捨て去り、或る者は還るべき天に召され、行き場のない者たちは、この場に妖や妖精、魑魅魍魎として留まり続けています」
死神は足元に擦り寄ってきた一匹のコネをの頭を静かに撫でました。猫の尻尾は二股に分かれています。
「この猫もそうです。最早、ニンゲンの営みに干渉することもありません。天への帰還を拒まれたが故に、只、此処でひっそりと存在し続けるだけの魂です。より貪欲で強力な妖が、自らの力を増強するためにこの猫を喰らい尽くすその日まで。だから、この猫たちもあの子の力による慰めを必要としているのです」
「弱肉強食の世界は、この世もあの世も同じやな。ホンマ、やってられんでぇ」
「もうお分かりでしょう。この子はこの場所に居ることによって、悪霊を消滅させ、怨念が積層する磁場の力を弱体化しているのです。誰にも知られず、誰にも認められることなく、この子はたった一人でニンゲンの社会を磁場からの干渉から守っているのです」
「まぁ、この子はそんな大層なことしているちゅー気は更々ないやろうけどな。単に目の前で困っている人を助けようとしているだけで」
「この子には、この世の人とあの世の人の区別は全く付いていないでしょうからね。だから、余計に気味悪がられて孤独を深める結果になるのでしょう」
死神はじっと蟲ババ様の顔を覗き込みました。
「貴女にも覚えがあるでしょう」
「イランお世話じゃ、そんなこと」
二人が小声で話し合っている内に、少女は全ての妖たちに光を届け終わりました。
「今日はたくさん、困っている人がいたし、凄い怪我をしている人もいたから大変だったね。疲れなかった」
死神は少女に声を掛けました。声は既に少年のものに変わっています。落書き図形顔の死神に微笑みで応えた少女は、脇に置いてあった白い犬の玩具を引き寄せました。
「うん。だいじょうぶだよ。あのさぁ、おにいちゃん。チワワ、元気ないんだ」
その時、一羽のカラスが鳴きました。カァカァと、呼びかけるように頭上を旋回しています。
「もう、おじいちゃんになって動けないのかなぁ」
少女が、玩具の腹部に付いたスイッチをオンにしても、白いチワワはキュルキュルと苦しそうな音を立てて微かに足を交互に動かし、次第にその動きを止めました。
チワワが動きを止めたのに呼応して、再びカラスが交差点の標識に留まって一声鳴きました。
「おい、あのカラス。アンタのお仲間やないか縁起でもない」
蟲ババ様が囁きます。
「いえ、あれも私自身です」
死神も小さな声で応えました。
「これも、個にしてなんちゃら、ちゅーやつかいな」
蟲ババ様に応える様子もなく、死神は少女と話し込んでいます。
「ボクには良く分からないよ。もうお爺ちゃんなのかなぁ」
「だって、ずぅぅぅっと前にママがおたんじょう日にかってくれたんだし」
「此処に居るオネイサンなら、ワンちゃんを手当てしてくれるかも、きっと良くなるよね。ねっ、オネイサン」
死神はババ様に顔を向けていきなり、切り出しました。
「なんでやねん!」
既に、少女は蟲ババ様に犬の玩具を差し出しています。白いと云ってもほとんど手垢に汚れて灰色になり、所々では毛が剥がれています。
「オバサン。ワンちゃんナオせるの。元どおり、元気にしてくれるの」
少女は、レンズ一杯に広がった瞳で覗き込んできました。ちゃんとオバサンと呼ぶ当たりは、死神より正直なのかも知れません。
「ウチぁ、この手の機械のことなんぞ、さっぱり分からへんゆーの」
「キカイじゃないよ、この子。てくてくチワワって云うんだよ」
角のコンビニの前では、先程の若い主婦が、やはり近所の奥さん仲間であろう二人の女性を引き留めて此方に視線を向けながら、なにやらヒソヒソと話をしています。
「なんやねん。ウチぁ、人攫いちゃうで、ほんまに」
人相だけ見れば、疑われても仕方ありませんが・・・
「前にも、こんな風に動かんようになったこと、あるんかいな」
「うん。前はママがナオしてくれたの。でも・・・」
「ママ、今は駄目なんかい」
「夕方、帰ってくるけど、わたしがご飯食べ終わるころにはまたお仕事だから、いそがしくて大変なの。ワンちゃんの病気言い出せないの。心配かけちゃ悪いし」
『まぁ、ママはこのワンコの心配はしーひんと思うけどな』
流石の蟲ババ様もその一言は、喉元に押し止めました。
取り敢えず、玩具の腹部に設置された蓋を外してみれば、几帳面な母親だったのでしょう、電池に取り付けた日付がマジックで書いてあります。二年以上も前の日付でした。
「なんや。電池切れやないんかい、これ」
言うと、蟲ババ様は立ち上がりました。
「ワンコはお腹が空いとるんとちゃうかな。待っとりーな。オバハンがそこのコンビニでワンコの餌、買うてきてやるさかい。ご飯食べたらワンコは元通り元気になるで」
「ほんと、オバチャンありがとう」
蟲ババ様から「てくてくチワワ」を受け取った少女はそれを膝の上に寄せて「良かったね、またいっしょに遊べるね」などと言いながら、愛おしそうに頭を撫でています。
蟲ババ様は、佇んで此方の様子を窺っている三人の主婦と目が合いました。
「なるほどねぇ」
ババ様は小さく呟きました。と、その瞬間、耳を劈くような騒音が大通りから聞こえます。大音量の音楽を響かせて、一台の外車が交差点に進入してきました。あまりの五月蠅さにババ様が顔を顰めて目を向ければ、見通しの良い東の運河から猛スピードで走ってきます。開け放たれたウィンドウから肘を出した若いドライバーは透明のビニール袋を口に当てながら、速度を落とすことなく走っています。先程から鳴いていたカラスが標識からその車へと飛び立っていきました。
「アイツ、あの若造くんを迎えに来とった分けかいな。ああ云うのんは、人様に迷惑かけへんよう、勝手に電柱にでもぶっかって逝きされせばエエねん」
悪態をついて一歩足を進めた蟲ババ様が急に立ち止まりました。
「ちょっと待ちーな。死神のお迎えって。なんで、死神があの子にお兄ちゃんに姿を変えてまで取り憑いとんねん」
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ゆっくり読みました
交差点の細かい描写が、街中に住んでいらっしゃる空さんらしいな、と思いました。そして、落書き顔の死神、私の想像の中ではザブングルの加藤です・・。ダメ?
ヽ(^m^)ノムフフ
そんなに時間を掛けて、真面目に読むものでもないと思うのですがw
交差点の描写は・・・我が家の近くの重大事故多発地点を元にしていたりして(汗)。
「見ろやこの筋肉!かっちかちやど!」
アレ、ほとんど口を動かさずに発音しているところが凄い(爆)。