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02/28DEL



〔 祈り 〕





☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

気持ち悪~い(爆)。

文章の拙さは、何十年も文章らしき物を書かなかったからとは云え、それ以上に内容がベタベタ。

首筋あたりがキィィィィ~~~ッと引き攣って湿疹でも出てきそうな内容。

よくぞ、こんな物恥ずかしくもなく書けたものだと感心する。

認めたくないものだな、若さゆえの過ちと云うものを(爆)。

その当時、既に十分過ぎるほどに若くなかったけれど。

と、云う事で。

恥ずかしい黒歴史を披露。

絶対に削除します。

ババ様シリーズは削除するなと言われたけれど、他に関しては言われてなかったし♪


因みに、惚れて、ボコられて、女に助けられて、上司に嘘ついて。

そんな人間臭い趙雲が良いとか、見掛けによらず張飛が何気に良い人だ。とか、言われましたが……

書いた空×ジ・Oが一番好きなのは、誰も突っ込まなかった趙範だったりするのですが……ズレテマスカ……空×ジ・Oの感性って……やっぱり。
 

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蟲ババ様~ババ様は白衣の天使!?の巻(9)
 

(結)
 

その日、算術病院の階段脇では、最後まで残った夕子を花坊が慰めていました。

他の子供達は既に病室に戻っています。

「なぁ、もう此処にはウチしかおらへんから、思う存分泣いてええんやで、タコ」

花坊が夕子の肩に手を掛けて声を掛けています。今週になって新しい長期入院患者が二人入ってきました。どちらもそれまで最年少だった夕子よりも幼い子供たちです。

先程まで、夕子は泣きたい気持ちを我慢して、年下の新しい仲間達を宥めていました。

「偉かったなぁ、タコ。新しい子んたちの前では最後まで涙見せへんかったなぁ」

「うん、もうウチ大丈夫や。ウチ、お姉ちゃんになったから何時までも泣き虫でいられへんもんな。みんなに優しくして貰った分、あの子達の面倒見たらなあかんもんな」

堪えていた涙を止め処なく流しながらも、夕子は気丈にしっかりした声で花坊に応えます。

「ああ、タコももうお姉ちゃんやもんなぁ。タコのしっかりしたお姉ちゃんぶりを見たら、仁王様もきっと喜ぶで」

花坊は骨と皮ばかりになった手で優しく夕子の頭を撫でました。その仕草はまるで蟲ババ様そっくりです。

「なぁ、花ちゃん。花ちゃんは何で蟲ババ様のことを仁王様って言うんや」

顔を起こして夕子が尋ねました。

「うーん。ウチもよー知らへんけど、仁王様って『あー』と『うーん』があるらしいやろ。蟲ババ様の顔は魔除けに持ってこいやし、如何にも怒りの表情を顕わにした『あー』の仁王様そっくりやないか」

その一言に、ババ様の顔を思い出した夕子が噴き出しました。

そして、少し表情を曇らせます。

「蟲ババ様、どないしたんやろ。もう一週間も顔見いへん」

「なーに、蟲ババ様の事やから、またひょっこり顔出すに決まっとる。タコの事をあんなに思ってくれてはったんやさかい、タコが此処におる限り何処へも行ったりしーへん」

「せやな。ババ様うちらのヒーローやもんな」

いや、蟲ババ様はどちらかと云うと、地球制服を企む悪の秘密結社が作り出した敵役改造人間、しかも大幹部クラスだゾ、見るからに。

「さぁ、そろそろ病室に戻ろうや、タコ。ウチ、最近ベットから起きて動くだけで物凄く疲れるんや」

そう言って花坊が腰を上げようとした瞬間です。二人の目の前で『開かずの扉』がゆっくりと開き始めました。

「花ちゃん。扉が、開かずの扉が開いた」

夕子の言葉に花坊も息を飲みます。

開いた扉からは真っ白なシーツに覆われたベットが出てきました。二人の看護師がそれを運んでいきます。

階段に腰掛けた花坊と夕子の前を、ベットがゆっくりと横切っていきます。深閑とした廊下でキャスターの音だけがキュルキュルと二人の耳に届きました。

「『眠り姫』はん」

先に立ち上がったのは花坊でした。花坊は病棟の反対側にある大型エレベーターへと向かうベットを追いかけます。夕子もそれに続きました。

「『眠り姫』はん。よぅ頑張ったもんなぁ。」

「ほんま、今日まで、よー頑張ったもんなぁ」

口々にそう呟きながら後を追った二人でしたが、長い廊下の途中まで来ると、身体の弱っている花坊が立ち止まりました。

夕子は、苦しそうな花坊を支えて、静かに去っていくベッドを見送ります。

「友達になりたかったなぁ『眠り姫』はん」

「会って話がしたかったなぁ」

花坊の言葉を受けて、夕子も呟きます。

「そんなこと、あらへん。あんたらの声、何時も何時もちゃんと聞こえとったで」

その時、二人の耳に微かな声が聞こえてきました。

周囲を見渡しますが、側には誰も居ません。

「ウチら、もう友達やんか。ありがとな。ほんま、今までありがとな。これウチとお姉ちゃんのお気に入りや。何時も何時も、優しい言葉掛けてくれはった御礼や、貰おてくれるとウチ嬉しいな」

花坊と夕子は互いに顔を見合わせます。

「タコ。今の声、聞こえたか」

「今のって、『眠り姫』はんの声?」

怪訝そうに立ち尽くす二人の手には、何時の間にか何かが握り締められていました。

二人は同時にその小さな掌を開きます。

二人が握り締めていたのは、テレビで人気のアニメ番組のマスコットフィギュアでした。

「うわぁ。これ、ウチが大好きなアニメの人形や」

夕子が嬉しそうに声を上げます。

そんな夕子を、花坊が微笑みながら見詰めていました。

そして、花坊は掌の人形を見て呟きます。

「ありがとうな、『眠り姫』はん。さよなら」

二人は肩を寄せ合って、ベットが消えた方角を何時までも、何時までも見詰めていました。
                               


めでたし、めでたし。

ちゃんちゃん♪

お終い。
 


 

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蟲ババ様~ババ様は白衣の天使!?の巻(8)


蟲ババ様が幾ら腹を立てようと、侵入者の魔手は止まりません。完全にババ様は侵入者に身体を乗っ取られた形になってしまいました。と、同時に侵入者の意識がババ様の脳裏にシンクロします。濁流の如き勢いで侵入者の意志や感情が押し寄せてきました。

(うげげげげぇぇぇ・・・吐き気がする。こればっかりは何度経験しても絶対に慣れへんな)

しかし、確かに気持ちの良い感触ではありませんが、普段経験するような苦痛はありません。侵入者は蟲ババ様を労っている節が見受けられます。通常ならば、強力な霊と同調する場合には、相手が一方的に自分の思いを叩き付けてきたりする反動で、必ずと云って良い程に鼻血が出たり、喉の奥から出血するのですが、今回は全くその気配がありません。

侵入者はホイホイくんの守護霊でした。

(ヲイヲイ。大丈夫かいな、守護霊はん。アンタがおらんと、あの男は魑魅魍魎跋扈する原野に放たれた一匹の子兎でっせ)

守護霊の力でワラワラと引き摺っている怪しげな方々を見ずに済んでいるホイホイくん、プロテクトが外れた今、自分の周囲にいる魑魅魍魎が急に姿を現しているので、今頃は腰を抜かすか、大漏らしをするかでパニック状態になっている事でしょう。
 

(嗚呼。それで妹が様子を見に来た時に泡吹いて気絶しとった分けかいな、あの男。すると、妹をこの場に呼び寄せたのもアンタはんかいな)

しかし、そんな事にはお構いなしに、守護霊は蟲ババ様の身体を借りてケーコとマーコに言葉を紡ぎます。

「あんたらは一緒に向こう岸を目指せばええ。それが二人にとって一番ええ事なんや」

そう言うと、二人の姉妹を抱きしめました。

二人もババ様に身体を預けます。

「なんや、おばちゃん。さっきまでと全然雰囲気違うな。でも、暖かくてええ気持ちや」

蟲ババ様の身体を借りた守護霊の胸の中でマーコが呟きます。蟲ババ様はその時、自分が金色の光に包まれている事に気が付きました。

守護霊がその力で二人に何かしようとしている様子です。

金色の光は抱いたケーコとマーコを優しく包み込み、二人の身体も次第に輝き始めました。

(アンタ、神さんやったんかい)

蟲ババ様が呟きます。勿論、身体を乗っ取られている以上、ババ様の声が言葉となって発せられる事はありません。

蟲ババ様は、守護霊が同調した時に流れ込んできた意志を読み取り、守護霊の正体を知りました。ホイホイくんの守護霊は、地位は低いものの神の座にある方だったのです。

(そりゃ、強力な力持ってはる分けや。しかも、あまり位が高くない所がホイホイくんの守護霊はんらしいわ。アタタタタ!)

どうも神様、蟲ババ様に地位が低い事を指摘されて御立腹なのか、彼女の精神に怒りの鉄槌を振り下ろします。同調している以上、相手の事も分かりますが、此方の考えている事も向こうに筒抜けです。しかも、守護霊の鉄槌は精神に作用するのに肉体的痛みとして具現化するので始末に負えません。

(なんやねん、身体貸したっとるちゅーのに。神さんちゅーのんはもっと温厚なもんやないんかい)

(アタタ、アタタタタ)

(神さんがこうして出張って来んなら、最初からホイホイくんの身体使って物の怪退治すりゃーええやんか。嗚呼、あいつでは駄目か、根が鈍感過ぎるからな)

(アタタタタ。痛い!痛い!ホイホイくんの悪口も駄目なんかいな)

自分の思考が相手に全て分かってしまう以上、下手な事を考えるだけで神様の理不尽なバチが降り掛かってきます。蟲ババ様は黙って成り行きを見守る事にしました。

金色の光に包まれた二人は、薄暗い周囲を仄かに照らし始めました。二人は既に球体になっている模様です。

その球体が次第に小さくなり、一つに混じり合っていきました。

「姉ちゃん。これ、ウチのお気に入りやけど、持って行かれへんな」

蟲ババ様の耳に微かな声が届きました、マーコの声です。

マーコの声が囁くように音のない世界に広がっていきます。

「あんなぁ、姉ちゃん。ウチ姉ちゃんと一緒に向こう岸の眩しい世界行くんやから。姉ちゃんのも人にあげてええか」

「ああ、ええよ。誰にあげるの」

「何時もウチの事、気に掛けてくれとった仲間がぎょーさんおんねん。ウチ、自販機のとこにおったら、なんやウチに声掛けてくれた友達がおんねん。姿も見えへんし、声もよぉ聞こえぇへんかったんやけど、ウチには分かってたんや。知らないうちに出来た友達が皆、ウチの事気に掛けて応援してくれとった。だから、これ。その子たちにあげたいんや、おおきに、ありがとな、ってな」

次第に、二人の声は小さくなり、そして消えていきました。

二人は豆粒くらいの小さな金色の光となって、蟲ババ様の胸からふわりと浮き上がります。

ゆらゆらと揺れながら、小さな一つの光源は蟲ババ様の元から飛び立ちました。

それはよく見ると一匹の蛍でした。

どうやら川の向こう岸を目指して旅立っていくようです。

二人は一匹の蛍に姿を変えて、憧れの対岸目指してゆっくりと飛んでいきます。

その光は朧で、あまりにも頼りない光です。飛び方も辿々しく覚束ない印象を受けます。

それでも、その光に導かれるように、この場に留まっていた亡者達も小舟を出して川を渡ろうとしています。

「ウチ、酷い事言ってもーた。ゴメンなおばちゃん」

「おばちゃん、おおきに。ありがとな、おばちゃん」

それは風の悪戯だったのかも知れません。

既に飛び去ってしまった、あんなに小さな蛍の声が蟲ババ様の所まで届くとは考えられません。それでも、蟲ババ様は二人の別れの挨拶を聞いたような気がしました。



「ええんか。本当に、これで良かったんか。守護霊はん」

嘗て姉妹だった蛍の姿はもう見えません。

目の前には、只、滔々と漆黒の大河が流れるばかりです。

それでもババ様は、蛍が消えていった方角を黙って見詰めていました。

蛍は懸命に向こう岸に辿り着こうと飛んでいました。きっと二人の目には、夕日を背に光り輝く摩天楼が映っていたのでしょう。

何時の日か、二人で行ってみようと希望を抱いた、憧れの地がその視界に広がっていたのでしょう。

しかし、蟲ババ様にはあの小さな蛍が、この大河を無事に渡りおおせるとは到底思えません。蛍と云うあまりに小さなイノチにとって、対岸は遙か遙か遠い地です。

「本当に、これしか方法がなかったんかいな。守護霊はん」

しかし、答えは返ってきません。

既に守護霊はババ様の身体を離れ、ホイホイくんの元に戻ったようです。

ババ様はケーコの言葉を思い出していました。

「ほんま。ウチは何者なんやろう。何がやりたいんやろう」

物の怪はこの世に在ってはならない存在です。ホイホイくんの場合のように、特異なプロテクトが働かない限り、存在それ自体が時空の歪みを生じさせ、人の世に大小様々な影響を及ぼします。しかし、物の怪を生み出すものは人の心です。人の心が魑魅魍魎や魔、祟り神と結ばれる事でカタチをなし、誕生するものです。
 

何故、蟲ババ様には存在が確認出来るのでしょう。誰に頼まれた訳でもないのに何故、蟲ババ様が物の怪を退治しなければならないのでしょう。

しかも、今回は誰も救う事が出来ませんでした。

蟲ババ様は、黙って川縁に佇んでいます。何時までも、何時までも、蛍の消え去った大河の彼方を眺め続けています。

蛍の行く末を案じながら、腹の内に沸々と湧き上がる怒りを抑えています。

抑圧された怒りは時間の経過と共に、一層増大していきます。

「ぐぞづだりゃあぁぁぁぁ!」

腹立ち紛れに、蟲ババ様は目の前にあった岩を思い切り蹴り飛ばしました。

とても、普通の人間とは思えない蟲ババ様の膂力をして、手加減なしの渾身の一撃です。岩は砕けもしましょうが、蟲ババ様の足も無事では済みそうもない目一杯の一発でした。

しかし、その手応えは非常に柔らかく、頼りないものでした。

「ありゃりゃ。おっかしいで。なんでやねん」

訝る蟲ババ様の周囲が急に明るくなりました。見渡せば、其処は蟲ババ様が元いたテーマパークの休憩所です。

「ちょっと、ちょっと」

少し離れた所では、同じくこの世界に戻ってきたのであろう、蟲ババ妹が地面に落ちた物体に声を掛けながら慌てて駆け寄っていました。

その先に倒れているのはホイホイくんです。アスファルトに叩き付けられたガマガエルのような格好で俯せになって伸びています。これ以上ない。と、云った間抜けな格好です。そして、背中の真ん中にはババ様の履いているサンダルの痕がくっきりと残っていました。

「あちゃぁ。最高の頃合いで戻って来た分けかいな」

ババ様もゆっくりと、ホイホイくんの倒れている方に足を向けました。

背中に付いたサンダルの痕を見つけた蟲ババ妹は、姉の気質を十分知っているので、ホイホイくんを抱え起こすと適当に誤魔化しに掛かります。

「吃驚しちゃいましたよ。ホイホイさん、急に何でもない所で派手に転ぶんですもの。大丈夫ですか」

ぬけぬけと、言ってのけます。

蟲ババ様、渾身の一撃を喰らいながら、ホイホイくんは立ち上がりました。

打たれ強さだけがこの男の信条です。

「あひゃひゃひゃひゃ」

気が付くや否や、突然、意味不明な悲鳴を上げたたホイホイくん、思わず抱き付いた蟲ババ妹の顔を見て我に返ったのか、吃驚して弁明します。

「嗚呼、スミマセン。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ」

顔を赤らめ、恥ずかしそうに何度も何度も、謝っています。

「無理して沢山の缶ジュース抱え込んでいたら、突然、目の前に出現した恐ろしげな化け物達に襲われて。って、あれ、誰も居ない。何も居ない」

どうやらホイホイくん、守護霊不在の際に出くわした魑魅魍魎達に襲撃を受けたと勘違いしているようで、蟲ババ様が真犯人だとは考えてもいない様子です。

「へんな夢でも見たんですかぁ。おかしなホイホイさん」

蟲ババ妹が笑うものですから、ホイホイくんとしても、俯いて頭を掻くしかありません。周囲の視線を気にしながら、見栄をはって大した事なさそうな顔をしています。

「あれ、缶ジュースは?」

周囲にそんなものが散らばっている気配は全く見当たりません。

「確か彼処の自動販売機で」

ホイホイくんが、蟲ババ様の方角に目を向ければ、其処には自販機などありません。心配そうな顔をしながらも、口元を綻ばせた蟲ババ様が近付いてくる姿があるだけです。

「あれぇ。どないしたん、ホイホイくん。こんな、何でもない所で躓いて転ぶなんて、老化は足腰の衰えから来るっちゅーで。大丈夫かいな」

これまた、いけしゃあしゃあと、蟲ババ様が声を掛けます。

ホイホイくんは自分のポケットに手を入れ、中を改めました。入っていた筈の、お気に入りの女王様フィギュアが其処にはありません。

「ふーん」

ホイホイくんが目を細めて蟲ババ様を見詰めます。

きっと、蟲ババ様と一緒だった為に、またしても摩訶不思議な超常現象や心霊現象に誑かされた。と、思い込んでいるに違いありません。とは云え、全く見当外れな推理ではないのですが。

「あっ。お金だけはしっかり盗られている」

今度はホイホイくん、自分の小銭入れを確認します。根っから好い加減な男の癖に、意外と細かい奴です。

「まぁまぁ、彼方のアトラクションで皆さんが待ってますよ。ホイホイさんと一緒に乗りたいそうで。もうこんな時間です。テーマパークの滞在時間はあと僅かですよ」

空気を敏感に読み取った蟲ババ妹がフォローに入りました。

「ええっ。もうこんな時間ですか」

ホイホイくんは腕時計を見て吃驚しています。

「そうですよ。ホイホイさん、彼処のベンチで熟睡してたんですから。アタシはホイホイさんと色々回りたかったのに」

蟲ババ妹は、心にもない台詞を吐いてたたみ掛けます。

「ああ云う怖いの、本当は苦手なんですけどね」

笑いながら、ホイホイくんは蟲ババ妹が指さしたアトラクションの方角へ足を進めました。この男、どんな状況でも綺麗な女性にはとことん弱い様子です。

「今度の事は、しっかり貸しにしておきますよ」

去り際にホイホイくんは蟲ババ様にボソリと呟きました。

生まれついての鈍感男も、何度も蟲ババ様に振り回されているうちに、少しは分かってきたものとみえます。

「今回はありがとうございました」

珍しく、蟲ババ様は改まった口調でそう言うと、頭を垂れます。

去り際にホイホイくんは、片手を上げてそれに応えました。自分では格好を付けているつもりでしょうが、ババ様の一撃が効いたのか歩く格好からして、ぎくしゃくとして様になっていません。

「あほ、アンタとちゃうわ。守護霊はんに御礼言うたんやヴォケ」

幸い、最後に発したババ様の一言はホイホイくんの耳には届かなかった様子です。

去っていくホイホイくんの後ろ姿に重なるように守護霊が姿を現しました。散々な目に遭ったホイホイくんを見て少し嬉しそうに微笑んでいます。神様の割にはこの守護霊、結構良い性格をしています。

その姿を認めると、ババ様は再び深々と頭を下げました。それを確認するかの様に、守護霊の姿はふっと消えてなくまります。

「何、姐さん。今回の物の怪はちょっと辛かったの」

残った蟲ババ妹が声を掛けてきました。

「うん、そぅやなぁ。でも、アイツの背中を目一杯蹴り飛ばしたら少しすっきりした」

言いながら蟲ババ様は、今も大河を渡っているであろう一匹の蛍の姿に思いを寄せます。

「なぁ、アンタ。アンタは何で、人から頼まれもせんのに悪霊退治なんかしてんねん」

蟲ババ様は妹に尋ねました。

「そりゃ、決まってますよ姐さん。あいつら叩きのめすとスカッとするから」

「嗚呼。アンタの場合はせやろな。聞いたウチが馬鹿やったわ」

「アタシは人とは違う『眼』を持ってます。だから、アタシは自分の出来る事をしているだけです」

「そうか、確かにアンタにしかでけへん事やな、自分に出来る事をするか」

そう呟くと、蟲ババ様は携帯電話を取り出してメールを確認しました。

部長と衝突をして一週間。その間、毎日の様に仲間の看護師達から沢山のメールが届いています。そのメールで蟲ババ様は自分の置かれた立場を知りました。

実は蟲ババ様の辞表はあの部長の所で止まっており、人事課へは届いていません。蟲ババ様は有給休暇を取っている事になっていたのです。

これは部長の粋な計らいなのか、それとも奸計なのか。

確かに、激務の割に給料を徹底的に抑えた金権病院では、慢性的な看護師不足に悩まされています。しかも、小児科は絶対的にその数が不足していました。蟲ババ様がその外見とは裏腹に子供達から慕われている事は誰もが承知しています。

「あの親父にワビを入れたら、元通り彼処で勤められる分けか」

事の真相を知った当初、蟲ババ様は金権病院に戻る気など更々ありませんでした。此処で頭を下げるなどババ様の矜持が許しません。それに病院に戻れば、今後は絶対に上司に逆らえなくなります。

「それもあって、嵌めやがったな。あの狸親父め」

忌々しげに蟲ババ様が顔を歪めました。

「姐さん。病院に戻るの」

蟲ババ様の表情を察して妹が声を掛けてきます。

「子供たちのこともあるしな。此処は癪やけど、あの狸に大人しく頭下げるしかないやろ。明日にでも行ってくるわ。これ以上、有給減らされてもかなわんしな」

「本当はお人好しなんじゃないの、相手の部長は。悪く受け取ったにしても・・・甘いなぁ、普通ならこれで飼い殺しに出来るんでしょうが、姉さん普通じゃないから何時までも大人しくしているとは思えないし、暫くすれば元の木阿弥」

「普通やないって何やねん。まぁ、ワビいれなあかんさかい、帰りに頭を丸坊主にでもしてくるか」

「姐さん。それって謝罪とか謝意の証でも・・・姐さんの場合は恫喝になるから止めた方が」

「なんちゅー言われようや。こうなったら意地でも頭丸めたる。って、なぁ、アンタ。ウチの前でそのいけすかへんO-ED弁やめいや。何度言うたら分かるんや」

「何、言ってるんですか、姐さん。アタシはちゃんと『し』と『ひ』の発音を区別出来ています。アタシのはO-ED弁ではなくて、共通語。標準語ですから、誤解のないように」

蟲ババ妹はそう言うと、横目で高い位置から姉を見下ろしました。

少なくともこの二人、お似合い且つ最凶の姉妹である事は間違いなさそうです。



もう直ぐ終わるよw
 

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蟲ババ様~ババ様は白衣の天使!?の巻(7)


「これが、物の怪が引き起こした爆発事故の真相」

蟲ババ様が呟きます。

その瞬間、マーコの身体が急に歪みました。マーコだけではありません、周囲の夜の情景自体が時空が歪むが如くに消失しようとしています。

「あかん。しまったぁぁぁぁぁ」

咄嗟に蟲ババ様は、マーコの身体を抱きしめました。蟲ババ様も、自分の身体が何処か別の処へ飛ばされているのが分かります。

そうです。

マーコの執着と云う、よりしろを失った物の怪がマーコから消えてしまった為に、マーコは本来の姿に戻ってしまったのです。

それは、『眠り姫』の死と云う現実でした。マーコの肉体は既に生命活動を停止していたのです。

只、彼女に取り憑いた魔が物の怪として自ら生き延びる為に、彼女を生き存えさせていたのでしょう。マーコを『眠り姫』として、この世に存在させていたのでしょう。

しかし、よりしろを失って物の怪が消えた以上、マーコがこの世に生き存える術はありません。マーコに抱き付いた為でしょうか、蟲ババ様もマーコの行くべき場所へと誘導されます。


 

辿り着いた其処は、薄暗い大河の畔でした。

日の射さない薄暗闇の世界で対岸は朧に霞み、ゴツゴツとした石が散らばる足下だけが辛うじて確認出来ます。

目が慣れてくると、其処には形のよく分からない人影が沢山蠢いていました。

川を渡ろうとしている者もあれば、途方に暮れたように立ち尽くしている者もあります。まるで、澱んでいた流れが急に元通りになったような印象で、慌ただしく人影が行き交っています。しかし、混沌とした印象は否めません。

誰の目も朦朧とし、まるで意志がないように影だけが流れています。寄り添っていたマーコは気味悪そうに蟲ババ様にしがみつきました。

その時です。

蟲ババ様は、五、六体の朧な影に自分たちが囲まれている事に気付きました。どの影も禍々しいほどの邪気を発しています。

影は全て、幼くか弱いマーコを狙った悪霊たちでした。霊たちは他者を喰らい、取り込む事で、その力を増大していきます。蟲ババ様の力を瞬時に見抜いた殆どの霊たちは、それを畏れて近付こうともしません。それでも尚、蟲ババ様の側に居る美味しそうな獲物の魅力に抗いきれず、マーコを狙うのですから、二人の周りに佇んでいるのは、どれも強力な悪霊たちです。

「あかんで。幾ら何でも数が多過ぎや」

蟲ババ様はマーコを抱えると、脱兎の如くに駆け出しました。

「此方の世界も彼方の世界も所詮は弱肉強食かいな。やってられへんで」

叫びながら、蟲ババ様は浮遊する影の間を掻き分けながら走り続けます。迫力満点の蟲ババ様の形相に、周囲を徘徊していた一般の霊たちは、吃驚して思わず道を空けます。普通の霊たちにとっても、蟲ババ様の乱入は迷惑この上ない出来事である様子です。

しかし、駆けていく先からも二体の悪霊が姿を現しました。追ってきた悪霊たちの動きも素早く、蟲ババ様が一瞬怯んだ隙に散開して二人を完全に包囲してしまいます。抱かれていたマーコの小さな手が、強く蟲ババ様の二の腕を掴みました。

「ええか、マーコちゃん。オバハンから絶対に離れんなや」

蟲ババ様はマーコの身体を小脇に抱えると、無駄と知りつつ悪霊たちに向かって身構えました。悪霊たちは、我先にと獲物であるマーコに向かって一斉に飛びかかってきます。蟲ババ様は最初にマーコに手をかけようとした悪霊の顔を見据えます。どす黒く左半分が潰れた顔面に腐って爛れたた肌。飛び出した眼球は神経繊維によって辛うじて眼窩と繋がっています。蟲ババ様は空いている右腕の拳を、その悪霊の顔面に叩き込みました。

しかし、見事に顔面中央に振り下ろされた筈の拳は、悪霊を透過して蟲ババ様渾身の一撃は空振りに終わります。

蟲ババ様がバランスを崩した隙に、悪霊の手がマーコへと伸びてきます。咄嗟にマーコを頭上に抱き上げたものの、其処には背後から迫ってきた悪霊の手が待ち構えていました。その木乃伊の如き悪霊の伸ばした指先が今、マーコを捕らえようとしています。

「あかん!」

蟲ババ様がそう叫んで後ろの悪霊の落ち窪んだ眼窩を睨み付けた、その刹那。

不可思議な事に、二人を取り巻いていた悪霊たちの動きがぴたりと止まりました。まるで霊が金縛りにでも遭っているようです。

「うおぉぉぉぉ」

「うあぁぁぁぁ」

身動きの取れない悪霊たちの口からは絶望的な咆哮が湧き上がっています。

「何や。一体、どないしたんや」

蟲ババ様が周囲を見渡すと、こんな石だらけの河原の向こうからカツカツと甲高いピンヒールの音が聞こえてきました。

「どないしたんや、じゃないですよ。姐さん。一体、此処は何処ですか。歩き難いったらありゃしない」

薄朦朧とした闇の中から姿を現したのは、形の良い小鼻に小さな丸いサングラスを引っかけた蟲ババ妹でした。腰まで伸ばしたストレートの黒髪が、颯爽と靡いています。

「全く、姐さんからの連絡が遅いので、今回は梃摺っているのかと様子を見に戻ってみたら。姉さんは居ないし、ホイホイさんはベンチに座ったまま涎垂らして居眠りしているし、状況がサッパリ把握出来ません」

蟲ババ妹は、肩をすくめてそう言いました。どうやら、悪霊たちの姿を捕らえる事が出来ても、マーコの姿はその瞳に映っていない様子です。

「ホイホイさんの場合は、寝てると云うより泡を吹いて気絶していた様子ですけど。歪んだ空間の真ん中で」

蟲ババ妹は、ホイホイくんに声を掛けようとした瞬間、何者かの手が彼女の腕を掴み、この場所に引き込まれた。と、言うのです。

「あいつの身に何か起こったんかいな。まぁ、兎に角助かったで」

「姐さん。相変わらず派手に暴れてますね」

蟲ババ妹が、身動き一つ取れずに恐怖で固まっている悪霊の頬を平手で叩きました。先程までの威勢は何処へやら、悪霊は唇を震わせて泣いています。

「見るからに悪党面で強力そうなメンバーじゃないですか。よくまぁ、こんな最悪のメンバーを揃えたものです」

「あほ。好きで揃えた分けやない。勝手に襲ってきたんや」

「またまたぁ。どうせ姐さんが喧嘩ふっかけたんでしょう。お前ら悪霊は存在自体が許せない、とか言って。姐さん、その顔で妙に正義感だけは人一倍強いから」

蟲ババ妹が、凍て付くような視線で周囲の悪霊たちを一瞥します。

「此処はアタシが受け持ちますから、物の怪の方は姐さんにお任せですわ」

「ああ、頼むで」

言うと、蟲ババ様はマーコの手を取り大河の方角へと足を進めました。後ろでは、悪霊相手とは云え同情したくなる程の叫び声が聞こえてきます。

絶叫に混じって蟲ババ妹の声も耳に届きました。

「このセクハラ課長が、嫌らしい」

「取引先だからって、何でも我が儘が通ると思うなよ。お客様は神様なんかじゃねぇよ」

「接待で幾ら贅沢なもの食べても美味くないんだよ、無理に食べさせるな。増えた体重の責任。一体、誰が取るんだよ」

其処には、普段の蟲ババ妹の気取った物言いは微塵も感じられません。少なくとも、蟲ババ妹は自らのはけ口の為に悪霊退治をしているとしか思えない豹変ぶりです。

「ほんま、我が妹ながらあいつは」

呟きながら、蟲ババ様は澱みの中枢たる大河の川縁へと進んでいきました。

目の前には、漆黒の河面が広がっています。遠くを見渡せば、他の場所は滔々と影が流れ行くのに、何故か此処の一角だけ、朧な影が滞っています。おそらくは物の怪が引き起こした、時空のイレギュラー現象の影響で、この周囲だけ霊たちの流動が悪くなっているのでしょう。

暗い川縁まで到着した時、、蟲ババ様は自分の背中に激しい敵意が向けられているのを肌で感じ、振り返りました。

その瞬間、蟲ババ様の顔面目掛けて河原の石が跳んで来ます。

「人殺し!」

蟲ババ様に向けられたであろう、耳を劈く悲鳴に近い罵声も飛んで来ました。確認しなくとも蟲ババ様にはそれが何者だか分かりました。

物の怪です。

其処に立っていたのは、マーコの姉。ケーコという名の物の怪でした。

「アンタがマーコを殺したんや。この人殺し!」

見た目は、普通より少し痩せてはいますが何処にでも居そうな小学生の女の子です。しかし、その形相は宇虫人フェイスとか、仁王様と呼ばれる蟲ババ様をたじろがせる程に怒りに満ちていました。

「あっ。姉ちゃん」

ケーコの姿に気付いたマーコが姉に駆け寄ろうとします。

しかし。

「来んな。マーコはこっちに来ちゃあかん。早う帰りや」

ケーコが妹を制しました。

「アンタは元の場所に戻らんとあかんのや。こっちぃ来ちゃあかんのや」

全ては手遅れです。それでも、ケーコの叫びが薄朦朧とした空間に虚しく木霊します。

蟲ババ様には此処が何処だか分かっていました。この場所に来てしまっては、人間離れした能力者ババ様姉妹ならばまだしも、マーコのような幼い子供が元の場所に戻るなど不可能です。

「アンタ。ずっと一人で此処で頑張ってはったんか。妹の為に」

蟲ババ様はケーコに声を掛けました。

ケーコはババ様を睨み付けています。

「ウチ、見えたんや。爆風で吹き飛ばされるマーコが見えたんや。救急車で運ばれるマーコが見えたんや。そんなつもりやなかったのに、マーコの為を思ってした事なのに、ウチの所為で血まみれになったマーコが見えたんや」

ケーコが絶叫します。

「だから。だから。ウチ、マーコに謝らなあかん。謝っても償い切れへんけど謝らなあかん」

その声は涙声へと変わっていきました。

「でも、ウチは此処を動かれへん。ウチが此処を一歩も動いたらマーコがこの世界に引き込まれてまうんや」

物の怪と化したケーコはこの場に留まり、あの異空間に留まったマーコの執着を捕らえて彼女の身体を現世に引き留めていたのでしょう。物の怪の正体は、妹を思う姉と無垢な妹との間に結ばれた、儚くも脆弱でありながら、深く強く繋がった一本の絆だったのかも知れません。

しかし、マーコと云う一方のよりしろを失った物の怪は、実体を現すことなく次第にそのカタチを失っていきます。

「マーコと逢うにはマーコが此処に来てくれるしか方法があらへん。でも、絶対にマーコは此処に来ちゃあかんかったんや。ずっと、あの場所におらなあかんかったんや」

ケーコが蟲ババ様にあらん限りの憎悪をぶつけてきました。

「アンタや。アンタが余計な事しいへんかったら、マーコは此処に来る事もなかったんや」

ケーコは、再び足下に落ちている石を拾い上げると、蟲ババ様に向かって投げつけました。蟲ババ様は避ける素振りも見せず、額でそれを受けます。

「なぁ、アンタ。アンタは妹思いのええ姉ちゃんや。でもなぁ、アンタは行くべき処へ行かなあかんやろ。アンタが物の怪の力を使って此処に留まっとるさかい、この周辺では彼方に行く人たちの流れが悪うなってしもうとる。向こうの世界に留まり続ける人がぎょうさん出てきとる。アンタ、お姉ちゃんなら、それが良うない事だって分かるやろ」

蟲ババ様は諭すような穏やかな声で、時空のイレギュラーを持ち出してケーコを宥めようとしています。

元々、根がアバウトな蟲ババ様。そんなイレギュラー現象など如何でも良いから、兎に角『眠り姫』を助けようと行動を起こした事などおくびにも出しません。蟲ババ様、意外と大人の厭らしさを持った偽善的な一面も持ち合わせているようです。

「ウチはマーコの為なら物の怪になっても構わへん。悪魔にだって魂売ったるわい。向こうの世界に留まる人が仰山出てきて困っとるって、そんなんウチらに関係あらへんやないか。向こうの世界がウチらに何してくれたちゅーねん」

「アンタが、此処でたった一人で妹の為に頑張っとったのは偉いと思う。でも、それでは妹さんはあの狭い空間に永遠に閉じこめられたままやないか。あんな状態でそのままなんて、可愛そうやと思わへんか。妹さんだってアンタに逢いたいと思っとった筈やで」

「綺麗事抜かすなババア。アンタが余計な事せぇへんかったら、マーコは此処に来る事もなかったんや」

ケーコの怒りは収まりません。

「大体、何やねん。アンタぁ何者やねん。一体、何がしたかったんや。余計なお節介しくさって。アンタ自分が何様のつもりやねん」

果てるともなく、ケーコはババ様に食って掛かります。

しかし、それも無駄な行為です。

マーコと云う、一方のよりしろを失った事で、ケーコと一体化していた物の怪は、次第に音もなく崩れていきます。ケーコをこの場に留めていた力も急速に失われていきました。

蟲ババ様はその時、消失する物の怪の悲鳴を聞いたような気がしました。それは仔猫の断末魔のようでもありました。

何時にないケーコの形相に戦いてババ様の後ろに隠れていたマーコですが、おずおずと顔を出して姉に語り掛けました。

「堪忍な、お姉ちゃん。ウチが悪かったんや。ウチがお使い一つ満足にでけへんで、愚図愚図してたもんやから、お姉ちゃんに心配掛けてもうた」

マーコの視線に晒されてケーコの形相が少し緩みました。

「そんなことあらへん。マーコは何も悪くないで、ウチは別にマーコを怒ってへんで」

ケーコの一言に、マーコは、それまで大切に抱えていたジュースをおずおずと差し出します。

「お姉ちゃん。喉が乾いとったんやろ。ほら、ジュース。遅うなって勘弁や」

差し出されたジュースをケーコが受け取ると、マーコは満面の笑みを浮かべます。相変わらず小汚い顔ですが、本当に嬉しそうな、愛らしい表情です。

「知らん人と仲良うしたらアカンって、姉ちゃんゆーとったけど、このおばちゃんはええ人やで。ウチ小さいから、難しい事はよぉ分からへんけど、このおばちゃんが助けてくれたから姉ちゃんの所に来れたと思うんや。さっきも、おっかない顔した人たちからウチを助けてくれたんやで。だから、あまり怒らんといてや、おばちゃんに酷い事、言わんといてぇな」

ケーコは受け取った缶の下に付いていたプラスチックを外しました。中からはテレビアニメのマスコットフィギュアが出てきます。

マーコはニコニコ笑いながら、ババ様から貰ったもう一つのフィギュアを片手に持ち、河原に腰を降ろすと缶のプルを引きました。

「ウチも喉が渇いてもうた。姉ちゃんもオバチャンも一緒に飲も」

マーコを真ん中にして、ケーコとババ様が左右に腰を降ろします。

「何だぁ、姉ちゃん。此処でウチを待っとってくれたのかぁ。姉ちゃん、この川の向こうへ行きたいってゆーとったもんなぁ、昨日」

マーコの言葉にババ様とケーコが思わず顔を見合わせました。

目の前に広がっているのは、薄暗い荒涼とした大河です。薄暗闇に覆われた静寂が支配する殺風景な景色です。遠い対岸は此処からは茫洋としています。微かな光を反射して、向こう岸に向かう亡者達の乗る船が、疎らに川面を漂っているだけです。それすら、刻が凍り付いたかのように、此処からでは動いているようにも見えません。

「向こう岸、遠いなぁ。でも、キラキラ輝いて綺麗や、高いビルが幾つも見えるで。ええ所やろうなぁ。彼処でオトンやオカンが待っていてくれるんやな」

どうやら、事故を起こす前日、二人して眺めていた川縁での光景がマーコの目には映っている様子です。

「素敵な所やろうなぁ、向こう側は。でもこっからは遠そうやなぁ」

うっとりした表情でマーコは遙か対岸を眺めています。

「あんなぁ、マーコ。オトンとオカンはなぁ」

其処まで言って、ケーコは声を詰まらせました。

「オトンとオカンは先に向こうに行って待っとってくれるんやろ。ウチらもう直ぐ引っ越しせなあかんかったさかい」

「・・・」

「そんで、姉ちゃんがウチを此処で待っててくれたんや。ありがとな。ウチの荷物まで用意してくれて」

そうです。ケーコは何時も持ち歩く古びた水筒を首からぶら下げ、二人分の衣類を詰め込んだリュックを背負っているのです。

その時になって、蟲ババ様もケーコも何故マーコだけが別の風景を見ているのか、その理由が分かりました。

ケーコが声を詰まらせて言います。

「ゴメンな、マーコ。姉ちゃん。此処でマーコとお別れせんとあかんのや。姉ちゃん、マーコと違って悪い子だから、マーコの行く所に行かれへんのや」

「何でや、姉ちゃん。姉ちゃん何時も優しいええ姉ちゃんやったで。何時もウチと一緒に居てくれる素敵な姉ちゃんやったで」

「そんなことあらへん。姉ちゃん、とっても悪い姉ちゃんやから償いせなあかん。良うないことばかりしでかしてきたから罰が当たって当然なんや」

「嘘や、姉ちゃんが悪い事する筈ないやないか。何時も一緒に居てくれるゆーたやないか。昨日も一緒に川の向こう側に行こうってゆってくれたやないか。ウチ、ちゃんと聞いてたで」

言いながら立ち上がり掛けたマーコを、ケーコはしっかりと抱きしめました。

「大丈夫や。もうマーコは一人でも大丈夫や。マーコがこれから行く向こう岸には辛い事なんぞ何にもあらへん。お腹も空かなきゃ、オトンやオカンにぶたれる事もない。只、其処にいるだけで幸福になれるええ所や。其処でマーコは幸せに暮らせるんや」

「イヤや。どんなええ所でも姉ちゃんがおらへんかったらイヤや。ウチそんな所に行きとうない。何でや、何で姉ちゃん、そんな事ゆーんや」

マーコは姉の言葉に駄々を捏ね始めました。

「そうや。あんたら二人は何時も一緒がええ」

そう言ったのは、蟲ババ様でした。

否、正確には蟲ババ様の身体を借りた何者かです。

(来た。来た。来ましたよ、誰やねん。こんな時に)

その時、蟲ババ様の身体に実体を持たない何者かが侵入してきたのです。蟲ババ様は金縛りにあって身動きがとれません。

(ぐああぁぁぁぁ・・・気持ち悪!何処のどいつや。選りに選って、こんなタイミングで人の身体に勝手に入って来さらす野郎は)


ま~だ、続くのか……好い加減にしろ!とか言われそう(爆)。
 

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蟲ババ様~ババ様は白衣の天使!?の巻(6)

「美味しいかマーコ」

夕日が二人の影を長く伸ばしています。水面が茜に染まりキラキラと輝いていました。

土手の上では夕方の慌ただしさに追われるように、幾多の人々が行き交っていますが、川縁に腰掛け、一つのメロンパンを分け合って食べている二人の子供を気に留める人は誰も居ません。

「なぁ、マーコ。アンタほんまに人懐っこいからなぁ。あんまり知らん大人と話したらあかんで」

「ごめんな。姉ちゃん」



ケーコは小学生四年生ですが、学校には滅多に行きません。

「ほな、行ってくるで。ちゃんとマーコの面倒見ときや」

今日も両親は、ケーコの前に小銭をばらまくと二人して出掛けました。定職を持たない両親は、最近は近くの喫茶店で朝食を済ませた後、パチンコ屋に入り浸り状態です。ケーコは母親が置いていった小銭を拾い集めると、マーコを連れて家を出ました。集めたお金は百五十円あります。今日は、ちょっと贅沢が出来そうです。

古ぼけた木造長屋の借家を出ると、近所では同じように老朽化した荒ら屋が軒を連ねています。二人の家の両隣もそうですが、空き家が目立っています。この一帯は全て新しく出来るテーマパーク建設予定地に入っていました。以前から立ち退きの話が出ているので、新築したり改装している家も見当たりません。

「おお。ケーコちゃん学校か。今日もしっかり勉強して来ぃや」

近所のお婆さんが親しげに声を掛けてきました。

「うん、おはよ。婆ちゃん」

ケーコも答えますが、まだ小学校に上がる前のマーコが一緒です。学校に行ける筈もありません。

「学校なんぞ行かんでも大人になれるわぃ。それよりマーコの面倒しっかり見たりや」

それが父親の言葉でした。ケーコはそれを忠実に守っています。

いえ、親の言う事を聞いているのではなく、幼いマーコの面倒を見るのは自分しか居ない、と思っているからなのでしょう。両親の姿を見ているだけで、当てにならない事はケーコにも十分わかります。

何度も学校の担任がケーコの不登校について家を訪れました。しかし、「こいつが学校なんぞ行ったら、一体誰がマーコの面倒見るんや」と、両親は全く取り合おうとはしません。父も母も完全に育児放棄状態です。

只、近所に対する世間体もあるので、親はなるべく遠くで時間を潰してこい。と、ケーコに言い聞かせました。

昼間から街中を幼い二人が歩いていると、必ず声を掛けられます。その度に「ウチの妹がな、加減が悪いんや。近くのお医者さん、連れて行く途中なんや」などと誤魔化して人気のない裏山や遠くの川縁まで歩いて行っては、其処で二人は夕方まで時間を費やします。

今日は百五十円あったので、メロンパンを一つ買いました。

お金がない時はマーコだけ待たせて、ケーコが近くの小さなスーパーやコンビニで手頃なものを失敬してきます。シャツの下に菓子パンを一つ入れてはダッシュ。今まで、捕まった事はありません。

但し、幾ら防犯カメラの隙を突いても、周囲の人に見つかる事はたまにあります。そんなときは思い切り走って逃げます。荒ら屋の並んだ裏路地などに逃げれば、何時も何とか逃げおおせました。御陰で、何時もケーコの身体は擦り傷だらけです。犯行が見つかった時は、その近辺には暫く近寄りません。

メロンパンを買ってマーコが待っている川縁に来ると、マーコは見知らぬ初老の男性と話をしていました。

「なんやねん、オッサン。ウチの妹に何か用か」

「君がお姉さん?こんな所に小さな子が一人でいるから気になって」

「ウチが今から連れて帰るところや。何やねん、オッサン。勝手にウチの妹に近付いて。人攫いか。とつとといねや」

親父さんは呆れたように去っていきました。

「なぁ、マーコ。アンタ、知らん人とあんま話したらあかへんで。お巡りやったら連れてかれてまうで」

「なに言うとんの、姉ちゃん。お巡りさんと人攫いは全然ちゃうやろ」

「お巡りも人攫いも似たようなものやっちゅーねん。大人なんぞ信用でけへん。まぁ、ええわ。兎に角、悪い奴らがぎょうさんおるから、気ぃ付けるにこしたことない。」

ケーコは首からぶら下げた、プラスチックのズタボロになった水筒を外しました。中身は朝、家を出る時に汲んでおいた水道水です。

先程の男性の後ろ姿が見えなくなったのを確認したケーコは、持っていたメロンパンを袋から出すと真ん中から二つに分けました。

「さぁ、メロンパン買うて来たで、食べようや」

「うわぁ。ウチ、メロンパン大好き」

マーコが嬉しそうに答えました。

夕日がマーコの頬を真っ赤に染めます。朝から何も食べていないマーコは一心不乱に、メロンパンに齧り付いていました。

川の向こう岸をケーコは黙って眺めています。大きな川の向こう側には、天に向かって数多の高層ビルが建ち並び、灯り始めた明かりが光の塔となって、堂々たる威容を醸し出しています。

其処には二人の知らない世界が聳え立っていました。

「なぁ、マーコ。何時かお姉ちゃんと二人だけで向こう岸に行ってみいへんか」

ケーコは妹の顔へと静かに視線を移しました。余程、空腹だったのでしょう。マーコは姉の言葉など耳に入らない様子素振りでメロンパンを食べています。

「お姉ちゃんのも食べるか。マーコ」

ケーコは優しく声を掛けます。

「ええよ。姉ちゃんも今日は何も食べとらんやん。お腹空いてるやろ。早ぉ食べぇや」

マーコはすっかりパンを平らげると、自分の指を嘗めながら答えています。

「なぁ、マーコ。マーコはお姉ちゃんが絶対に守ってやるからな」

「うん。何時も、何時も、お姉ちゃん、ウチの事、守ってくれてるで。おおきにな」

「オトンもオカンも信用でけへん。大人なん当てにならへん」

「なんでや。何で、そんなこと言うんや、姉ちゃん。ウチはオトンもオカンも好きやで。姉ちゃんが一番やけどな」

マーコは笑って言いました。しかし、前日の夜。ケーコは両親の会話を聞いてしまったのです。



「なあ、アンタどないする。此処も立ち退きの話が出とるけども、ゆくあてもなきゃ引っ越し費用もあらへんで」

「お袋に頼んでも、もう金ぇ貸してくれる筈あらへんしなぁ、どないしょ」

「お義母さんと云えば、お義母さんが保険掛けてくれてはったなぁ。積み立て式の奴」

「ああ、あれな。マーコが中学に入るのんに合わせて満期が来るようになっとった。ケーコの入学祝いやマーコの小学校までは自分も現役やけど、その先は、マーコの中学祝いはそれでまかなうつもりらしい」

「なんでやねん。実の子供が困っとるのに孫のことばかり、でもあの満期金受取人はアンタになっとったんちゃうか」

「証書はお袋んとこや、それに掛け始めてそんなに経っとらへん、引っ越し費用に充てようにも解約払戻金すら返って来ぃへんやろ」

「でも、死亡保険金なら満額降りるんちゃうか?きゃはははは」

ケーコが夢現の中で聞いた両親の会話は、単なる酔った勢いでの戯れ言だったのかもしれません。しかし、育児を放棄しアルコールとギャンブルにのめり込むばかりの両親を目の当たりにしているケーコにとって、それは衝撃的な言葉でした。

「マーコを守るのはウチしかおらへんねん。オトンやオカンにとって、ウチもマーコもいらん子だったんや。お金に換える為の子やったんや」

ケーコは隣で眠っているマーコに目を向けます。

「オトンやオカンがウチらがいらへん、ちゅーんならウチらだって親なんぞいらへん。ウチがマーコの面倒見たる。ウチがマーコの親になったる」

激しい怒りと押さえ難い愛情を自ら制御出来ないまま、ケーコの瞳に怪しげな光が宿りました。
 


二人して日が暮れるまで川縁で摩天楼聳える向こう岸を眺めていたその日。自宅に帰った頃には周囲はすっかり暗くなっていましたが、両親の姿は見えませんでした。

姉妹揃って、一緒に布団に入ったその夜、ケーコは夢を見ました。

数日前から見掛けなくなった二匹の仔猫の夢です。

一人住まいをしていた近所のお婆さん宅の玄関先に住み着いた二匹の猫が居ました。

同じような白地に黒い模様の入った雌の仔猫です。きっと姉妹なのでしょう。大きな方は人に慣れる事もなく、気位の高そうな雰囲気を漂わせて、何時もケーコやマーコを遠巻きに眺めています。小さな方は、人懐こくて知らない人にも近付いて気持ち良さそうに撫でられたりしていました。大きな方は、近付くと威嚇してきます。それでも、小さな猫が道行く人に可愛がられる姿を我が事のように見詰めていました。

しかし、その眼は常に妹猫に注がれ、決して油断はしていません。小さな猫に危害を加えようとする人が現れたら、即座に襲い掛かりそうな体勢を整えています。幼いながら、小さな猫を見るその眼差しは母親のものに似ていました。

その猫たちの姿が、突然見えなくなったのです。

お婆さんに尋ねても「ウチの飼い猫だった分けでもなし、ある日突然、ひょっこりと姿を現わして、また突然にいなくなったんだからねぇ、まだ小さいのに。一体、何処へ行ったのやら」と首を傾げるばかりです。

「アンタたちに慣れていたみたいだから、きっとまた、ふらりと舞い戻ってくるに違いないよ」

お婆さんはそう言いますが、ケーコもマーコも猫たちの事が心配で気が気ではなりません。誰か親切な人に拾われれば良いのですが、車に轢かれたりしていた時の事を考えると親しくなっただけに目頭が熱くなる思いです。

でも、ケーコの夢の中で、二匹の仔猫は肩を寄せ合い、仲良く暮らしていました。

流れ流れて見知らぬ街を旅し、カラスや意地悪な子供たちに虐められながらも、少ない食べ物を分け合いながら暑さや寒さ、嵐や空腹に耐え、お互いを庇い合いながら逞しく一日一日を生き延びています。
 
 

目が覚めた時、ケーコは自分が泣いている事に気付きました。隣に目を向ければ、マーコがすやすやと眠っています。

台所から零れる明かりに気付き、其方へ行ってみると、何時の間に帰ってきたのか両親がテーブルに寄り掛かって熟睡していました。今日はパチンコで勝ったのでしょう、何本ものアルコールの瓶やビールの空き缶が方々に散乱しています。

そのまま両親を起こさないように、足音を忍ばせて玄関まで出たケーコは、薄汚れた自分たち姉妹の靴を手に取ると、マーコの元へと戻りました。

そして、じっとマーコの寝顔を見詰めます。

「オトンもオカンも、大人たちなんぞあてにならへん」

そう呟くと、ケーコはマーコを起こしました。眠たそうに目を擦っているマーコにケーコが呟きます。

「なぁ、マーコ。今日は暑いさかい、喉が渇かへん?」

「ううん。別にウチ平気やけど」

「ねぇちゃん、喉が渇いて堪らんわぁ。なぁ、家の向かい側にある自動販売機に行って何か飲みもん買うて来てくれへん」

そう言うと、ケーコは押し入れの隅に隠してあった汚い財布を取り出しました。中には二枚の百円玉と五十円玉と十円玉が一枚ずつ、そして五円玉と一円玉がずっしりと入っています。

「ほら、靴持ってきたで。オトンたちに見つかったら、折角貯めたお金取り上げられてまうやろ。やから、其処の窓から出て買うて来てくれへんかな」

「だって、こんな時間やんか。ウチ一人で外、怖ぉてよー出ぇへんわ」

「頼むさかい、お願いや。ねぇちゃん、此処でオトンたちに見つからんように見張っとるさかい」

「だって、ウチ。一人で自動販売機で買い物した事ないんやで。ウチ、他の子より小さいから手ぇ届けへんかも」

「頼むわぁ。マーコの好きなの買うてええさかい」

マーコが窓からこっそりと出て行きました。それを両親が気付いていない事を確認したケーコは、小さなリュックに少ない衣類を放り込みます。

今まで、何度もマーコを連れて出掛けた時に、そのまま家出しようと試みた事はあります。しかし、それも尽く保護されて両親の元に送り帰されました。

「オトンやオカンが居るからウチらが連れ戻されるんや」

ケーコが窓から首を出すと、向かい側にある雑貨屋の自動販売機ではマーコが予想通り手こずっていました。そのうち、マーコは自販機の下を覗き込んで手を突っ込んでいます。プロパンガスのボンベの影になって余り良く見えませんが、おそらく釣り銭を落としたのでしょう。

それを確認するとケーコは、台所へと足を運びました。

「オトンもオカンも居なくなればええんや」

そう呟くと、ケーコはガスの元栓を緩めました。そして、冷蔵庫を確認しますが、勿論、入っているのはアルコールばかり、食べ物などありませんでした。

そっと、テーブルの上にあるスナック菓子でも持って出ようとそれに手を伸ばした時、ケーコの瞳は隅に置いてある父親の財布を捕らえました。

酔っ払って寝ている両親に気付かれないよう、財布を引き寄せて中を確認します。あまり入っているようには思えませんでしたが、それでも何枚もの紙幣が覗いています。

ケーコは静かに財布の中から紙幣を抜き取りました。

その瞬間です。

紙幣を握ったケーコの細い手首を、突然現れた大きな手が握り締めます。物凄い力でした。

吃驚したケーコが手の伸びて来た方角に目を向けると、父親がテーブルに顔を伏せたままの状態で上目使いに此方を睨んでいます。その目は血走り、真っ赤に充血していました。

「何してけつかんねん、この糞餓鬼」

父親はそのままケーコを自分の元まで引き寄せました。無精髭に囲まれて歪んだ口元から吐き出される、酒臭い息がケーコの顔に当たります。

「親の金に手ぇだすとは、何ちゅう了見や」

父親の拳がケーコの頬に炸裂します。その勢いでケーコは流し台の下まで吹き飛ばされました。

「何やねん。騒々しいなぁ」

物音に気付いた母親も目を覚ました様子です。

「この餓鬼が親の金に手ぇ出しやがったんや」

言うと父親は流し台の前までやって来て、ケーコの腹を二発三発と蹴っています。

「あぁん。家の子が泥棒したんかい。しかも親の金」

父親に代わって、今度は母親がケーコに詰め寄りました。髪を掴んで何度も床に叩き付けます。

「あんたなぁ。泥棒なんて人として最低やで」

ヒステリックに母親は叫んでいます。

「あんたたちに言われたくない」そんな台詞をじっと堪えてケーコは歯を食いしばって耐えていました。

「おい、あまり顔を殴るなよ。派手に怪我でもしたらまた何やら相談所とかが出しゃばって来よるで」

「なに言うてんねん。アンタだって思いっきり顔殴っとつたやないか。これは躾けやで。悪い事したら、こんな目に遭うちゅー躾けの一環や。赤の他人にとやかく言われとうないわ」

母親はケーコに対する体罰の手を緩めようとはしませんでした。

カチ。

カチ。

カチッ。

父親が煙草を咥えながら、パチンコの景品であろう真新しいジッポーライターの蓋を音を立てながら開け閉めして、再びケーコの元にやってきます。

「ほんま、親に向かってえらい顔して睨みおってからに。ろくなもんぢゃないな、この餓鬼は」

「ほんまや、謝りもせえへんと、泣き言の一つも言わへん。一体、どんな教育受けとんのやろ。親の顔が見たいわぁ」

「そりゃ、あんたたちだろ」

ケーコはO-SAKA特有のぼけ&突っ込みを返したいのを堪えて、再び歯を食い縛ります。生暖かい鉄臭さが口の中に広がり、胃液までもが込み上げてきました。

「まーだ、黙って睨んどる。ほんま可愛気のない餓鬼や」

母親はそう言うと、もう一度髪を掴んでケーコの顔面を床に叩き伏せました。

「鬼や。鬼の子や。この糞餓鬼は」

蹲るケーコに母親の平手が幾たびも襲ってきます。

そして、母親は立ち上がり様に、真ん丸の顔の中央におまけ程度に捨て置かれたような小鼻を蠢かせて呟きました。

「なぁ、何か変な臭いしぃへん?何だか臭いでぇ」

「そりゃ、この性根が腐った泥棒餓鬼の臭いやろ。全身から悪臭がぷんぷん臭っとるで」

父親がそう言いながら、咥えた煙草にジッポを近付けると、ライターに火を付けました。
 

まだ……続くんか……
 

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